元の居住地を離れ他の地で暮らさなければならない人々を示し、イスラエルの地を追われて各地に散っていったユダヤ人を言う言葉でした。
この本は、ユダヤ人についての記述もありますが、在日朝鮮人二世の著者が朝鮮半島を離れたコリアンもディアスポラであろうと言うことでその境遇などを記したものです。
本書の中には、「韓国で政治犯として捉えられていた二人の兄」という記述があり、かつての記憶を取り戻しました。
それは徐勝、徐俊植という名であり、私の大学生時代に在日朝鮮人が政治犯として韓国に捕らえられたとして、その救出運動が学内の政治団体などで行われており、頻繁に立て看などで見たものでした。
在日朝鮮人の経緯や境遇など、最初に記述がありますがこれは基礎知識として知っておくようにということで書かれたものでしょう。
著者の父上は現在の韓国から幼児の頃に祖父とともに日本に渡り、その後ずっと日本で暮らしました。著者も日本で生まれ育っています。
父上が韓国籍を選びましたので著者も韓国籍となっていますが、自分が「在日韓国人」と呼ばれることは不適切であり、民族としてはやはり朝鮮人であろうとしています。
戦争中までの朝鮮半島植民地時代には大日本帝国臣民として(ただし二流の臣民)扱われ、国に忠誠を誓わされながら、敗戦後はすぐに日本国籍を奪い勝手にしろということになりました。
その時、韓国籍を選んだ人もあり、朝鮮籍という人もあったようです。
ただし、韓国籍を選んでも在日の場合国の保護を受けられるとは限らず、特に日本から海外に出る場合は戻れる保証は必ずしも無いというものでした。
それでも、著者は芸術に触れようとして頻繁に海外を訪れます。
一度は日本の再入国許可の期限が切れてしまい、戻れなくなる悪夢のような状況に陥ったこともあるそうです。「特別永住許可」がありながらこの行政の仕打ちは変わることがありません。
訪れた海外では、同様にディアスポラであったユダヤ人などの作家、芸術家の足跡を辿ります。中にはナチスドイツの強制収容所で殺された人々も含まれます。
それまではドイツ国内で一定の財産と地位を確保していながら、あっという間に全て奪われ生命も失った人たちが、それでも遺した芸術というものに触れています。
ディアスポラの人々は、自分が誰であるのか、そのアイデンティティの確立が大きな問題となります。
著者も50代半ばを過ぎてもまだ己が何者なのかということに対して、確固たる答えは出せないと言います。
そして、現在でも新たなディアスポラを生み出す動きが世界各地で続いています。
ディアスポラ紀行―追放された者のまなざし (岩波新書 新赤版 (961))
- 作者: 徐京植
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2005/07/20
- メディア: 新書
- 購入: 1人 クリック: 16回
- この商品を含むブログ (29件) を見る