爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「日本の年金」駒村康平著

経済学者ですが、社会保障や年金が専門で、政府の顧問や有識者検討会の委員も勤められたという著者が、年金問題について詳細に説明されていると言う本です。

 

年金というものは、誰もが大きく関わるはずであるのに、あまりまともに考えたことがないという、困った状態です。

恥ずかしながら、私も会社に勤めている時には、「なんでこんなにたくさん天引きされるの」と不満を抱きながら、いざ貰う段になってみると「なんでこんなに少ないの」と文句を言うという、情けない有様ですが、他の人もだいたい似たようなものでしょう。

 

日本社会は急速な高齢化の進展から、年金財政も急激に悪化しその存続も危ぶまれるほどになっています。

また、厚生年金や共済年金はまだ支給額も確保されるものの、国民年金というものは支給額がとてもそれだけで生活を支えられる額ではなく、生活保護受給が避けられないものになります。

さらに、その国民年金すら掛け金未納で受けられない人が急増しています。

 

国民年金は元々は自営業者(農家を含む)のためのものとして作られましたが、その後そのような自営業者の人口は減り続け、現在では実質的には労働者の中でも非正規雇用者が加入するという性格が強くなっています。そのために、掛け金も払うことができない人の割合が増加しています。

 

年金制度というものが充実しているのは、先進国だけと言えるのですが、その先進国の中でも様々な年金制度のタイプが存在します。

しかし、どの国でも高齢化は程度の差こそあれ進み、国家財政の窮乏も進んでいるために年金制度の危機は存在しているようです。

 

年金制度のタイプとしては、

ビスマルクタイプ」 所得比例の給付建てを特徴とする。ドイツ・フランス・イタリア・日本(ただし日本は全国民共通の基礎年金が存在)

ベヴァリッジタイプ」 国民全員を対象として均一給付。ニュージーランドアイルランド

「ノルディックタイプ」 所得比例年金を中心としながらも、税と年金の一体徴収を行ない、制度の一元化を推進し、低所得層の給付を重点化した最低保証年金を用意し、上乗せの私的年金個人年金の制度を用意する。 スウェーデンフィンランドノルウェー

があります。

 

これらのタイプができるのは、それらの基になる思想の違いがあります。

つまり、「国民全体をカバーし普遍的な所得比例年金を推進する、社会民主主義的アプローチ」「職業別に加入する現行制度維持の、保守主義的アプローチ」「公的年金を縮小し民営化積立方式を進める、市場中心的(リバタリアン)アプローチ」です。

これらは、現在の政党別の政策の違いとも対応しています。

それぞれに長所もあれば欠点もあります。

 

これからの年金をどうするかという問題は、決めるべきことが多数あり大変なことなのですが、著者はこれらを政争のタネとするのではなく徐々にでも話し合いを続けて改善し続けなければならないとしています。

 

なお、年金積立金の運用については最後のところに記述がありました。

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は2006年に設立されました。

その運用の基本ポートフォリオは、国内債券60%、国内株式12%、外国債券11%外国株式12%、短期資産5%となっていました。

しかし、2014年には運用資産額126兆で、国内株式が16.47%に増加しています。

安倍内閣の政策として、公的年金積立金の積極運用ということが取り入れられ、国内債券率の引き下げと国内株式率の引き上げが行われました。

現在はまだ株式市場の高騰が続いているので見かけ上増えているように見えますが、株式市場の暴落という事態が起きれば大変なことになるのは目に見えています。

本書の中には、「公的年金積立金の運用利回りにはそれほど高いものをクリアする必要はなく、賃金デフレの環境では極端に言えばごく低い1.6%でも大丈夫」としています。

 

株式市場の相場吊り上げだけが目的の危険な政策だということでしょう。

 

日本の年金 (岩波新書)

日本の年金 (岩波新書)

 

 もっと早く、しっかり勉強しておくべきだった。