爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「遺言 ”財界の良心”から反骨のジャーナリストへ」品川正治、斎藤貴男

品川正治さんは、日本火災海上保険の社長・会長を勤められ、経済同友会の理事なども歴任されましたが、その言葉は普通の会社経営者などとはまったく異なるものです。

 

その品川さんが残り少ない人生を自覚したのか、後の世代に言い残したいことがあるとして、ジャーナリストの斎藤貴男さんを相手に日本の政治や経済など多くのことを対談しました。

その記録は残したものの齋藤さんが本としてまとめ、出版するのを待たずに2013年に89歳でお亡くなりになりました。これを「遺書」としたのも品川さんの発案だったそうですが、そのとおりになってしまいました。

 

ご自身は戦争にも行き、何とか生還した後は大学に入学、その後日本火災という損保会社に就職し、組合専従なども経験した後経営に携わると言う多彩な経験をされています。

そのためか、戦後の日本というものの見方もはっきりとしており、アメリカの支配下にある日本とそれに臣従する政財界というものも見据えています。

その言葉はどれもすっきりと頭に入ってくるものが多く、戦後の日米関係の構造というものがよくわかります。

 

終戦直後に日本を民主国家として弱体化させようとして、アメリカ軍の中でも特にリベラルなグループに日本国憲法を作らせてしまいました。

そのため、他のどの国にも見られない憲法9条と言うものができてしまい、その後アメリカの世界戦略がガラッと変わってしまっても、かえって日本を思うように動かすことができなくなってしまいました。

もしもあの憲法がなければ、朝鮮戦争にも日本軍を徴発し参戦させていたはずです。

ベトナム戦争でもそうだったでしょう。

しかし、日本を武装解除したのはアメリカであった以上それを無理やり変えさせるわけにも行かず、経済特化で復興させることになりました。

それにうまく乗って、さらにアメリカの意図をはるかに越えるような経済成長をしてしまい、その後の日米間の摩擦につながってしまいます。

 

その後1980年代には、アメリカは産業資本が弱体化し、完全に金融資本が国を乗っ取ることになってしまいました。

その後のアメリカの政策はすべて金融資本が思うように儲けることができるようにしているということです。

日本の政権のアメリカ追随もさらに強まりました。

安倍などはやたらに「日本はアメリカと同じ価値観を共有している」と言っていますが、齋藤さんは憲法9条がありまがりなりにも戦争放棄をしている国と、世界中のどこかで常に戦争を仕掛けている国と価値観が同じでたまるか。と書いています。

 

財政健全化と称して消費税増税を掲げていますが、これは財務省などの一部官僚の主張であり、それに乗ったマスコミの宣伝で国民も信じさせられています。

しかし、品川さんは「低成長のなかでも大企業の内部蓄積の膨大な増加と労働者賃金の大幅な低下を見ると、なぜ法人税を上げないのか、なぜ配当金税率を10%のままにするのか、なぜ相続税率を上げないのか、その謎は大蔵省と財界が一致しうるのは消費税率の引き上げだけた」と喝破しています。

消費税ほど不公平な税制はなく、さらに商取引の力関係で強者がより有利に動く税制です。

 

戦後の日本政治を品川さんは次のようにまとめています。これもすっきりとしていて頭に入りやすいものです。

政権を握ってきた保守政党は議会で常に多数を占めてきましたが、憲法と安保の矛盾の中で国家を統治し、国際関係を処理していく能力はなかった。俺たちは憲法改正に精を出す、それまでは上手くやってくれと、内政も外交も全て官僚に丸投げし、官僚の要求通りの立法を行なってきたのが実態です。この国が官僚国家、官僚が統治する国家であることは、何も官の野望でもなければ官が政から奪ったのでなく、統治を政から一任されたからですね。

 

現状でもこの国は「経済成長」一点でしか見ていない。

なぜその目以外は否定するのか。

ドイツが好きか、イギリスか、フランスかという時、そこの成長率が高いからなどとは誰も考えない。日本もその域に達しているはずなのに、日本だけ国際競争力一点張り。

成長の一神教のようです。

農業でも成長成長と言うからおかしくなる。成長の文脈に乗せてはいけないものまでのせてしまっている。

 

他にもうなずける内容が多かった本でした。

 

遺言~「財界の良心」から反骨のジャーナリストへ

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