著者の浜田さんは大阪市環境科学研究所に長く勤務され、その間住民からのカビなどの相談を数多く受けてきたそうです。
自分でも疑問を持った点など、すぐに実際に実験してみて解答を得るといったことに務められていた様子が、この本の記述からもよくわかります。
そこで、これまでの経験からカビと人間の関わりということを、汚染に留まらず利用の点も含めてまとめられています。
私も会社在職時には同じような分野に属していましたので、非常に親近感をおぼえる内容になっています。
本書は、まず最初に「カビとは何か」というお決まりの紹介から始まりますが、その後は「食品とカビ」「住居とカビ」「カビと健康」「カビと人との関わりの変遷」と、人間に生活とカビとの関わりを広く解説されています。
食品のカビ検査というものを、著者は業務として20年以上やってきたそうです。
カビ被害の多い食品というと目立つのは菓子類だとか。
羊羹やカステラなど、やや湿った菓子類が多いそうです。またチョコレートは通常はあまりカビが生えないものの、二層構造になっていて中に生チョコがあるといったものはその隙間にカビが入りやすいとか。
洗濯機にカビが生えるということはよく知られていますが、それがどのようなカビなのかということはあまり調べられたことがなかったそうです。
著者はそれを研究してみました。
すると、通常の室内に多い「クロカワカビ」という種類のものは少なく、エキソフィリア、スコレコバシディウムといった暗色のカビが多かったそうです。
これらは普通の空気中にはほとんど見られないものです。
これらのカビを、クロカワカビと対比させ生育試験をしたところ、クロカワカビは石鹸を栄養素とした培地には生育したものの、合成洗剤のみを栄養源とした培地には生えませんでした。
一方、スコレコバシティウムは合成洗剤培地によく生育しました。ただし、生育速度はクロカワカビよりかなり遅かったそうです。
また、洗濯乾燥機にもカビがよく生えるのですが、毎日乾燥機能を使う場合はかなりカビの生育率は少ないのですが、週1回以下の使用頻度の場合は非常にカビが多かったそうです。
日本では、電気代の節約を考えるためか、あまり乾燥機を使うことがなく、できるだけ天日乾燥を心がけ、雨天続きなどの時にたまに使うという家庭が多いようですが、その使い方では乾燥機内にカビが発生しやすいようです。
現在では、エアコンに大量にカビが生えるということは常識となっていますが、昔はそれに気付かれなかったようです。
著者が1992年に調査結果を発表してようやく一般に知られるようになりました。
冷気が結露を呼び、そこにカビが生えやすいということですが、最初はその結果発表にメーカーからさんざん嫌味を言われたそうです。
ただし、エアコン自体にはカビが生えるものの、それ以外の室内はエアコンの作用で乾燥するためにかえってカビの発生が少なくなるそうです。
浴室にもカビが生えやすいということは常識ですが、そのカビが何を栄養にして生きているのかは知られていないようです。
湯垢や石鹸カスといったものがカビの栄養になるように思う人も多いのですが、実際に浴室に多く見られるカビの生育試験をしてみると(こういった実験を数多く実施されているそうです。それもすごい)こういったものはカビの栄養にはならないようです。
浴室のカビも、洗濯機のカビと同様に洗剤の成分である界面活性剤を栄養として生育しています。
なお、肌に良いと言われるコラーゲンやハチミツ・オリーブオイルなどの成分を含む高給石鹸のほうが、普通の石鹸よりはるかにカビが生えやすいようです。
日本の発酵食品では、コウジカビを使う例が非常に多くなっています。酒、味噌醤油など伝統的にコウジカビが使われていますが、各地で調査してみても空気中にコウジカビが見れれることはほとんどありません。
他の青カビ、赤カビ、クロカワカビなどはどこでも多数分離されるのに比べ、コウジカビの少なさは興味を惹かれます。
これは、ごくまれに存在するコウジカビを日本人が選び出して利用していった歴史から来ていることです。
糖類の多い環境にしか存在しないコウジカビの中から、麹として使えるカビを選び出し育てていった日本の発酵産業の力だそうです。
いや、カビというのは本当に面白いものですね。