社会学分野で扱われるような問題を非常にこなれた日本語で辛口ユーモアたっぷりに紹介しているのが、自称イタリア人のパオロ・マッツァリーノ氏ですが、その「統計」「こだわりという言葉」「経済学」「勲章」「博士号」といったものを取り上げて面白おかしく解説している本です。
ただし、前に読んだものに比べると「一見社会学風」という色付けが少し薄れて、エンタテインメントが前面に出てきているようにも見えます。
今は「こだわり」の全盛期に入っているようです。
なんでもないラーメン屋まで「こだわりの・・・」といったウリ文句を並べるような傾向がありますが、実はこの「こだわり」という言葉はそれほど昔から使われていたわけではないそうです。
明治期から昭和初期までの小説にもこだわるという言葉を使う作家が出ています。
太宰治や宮本百合子が多いということですが、彼らはこの言葉をあくまでも「負の概念」として使っています。
こだわるのは、いやしいことだ。本当に恥ずかしいことだ。(太宰 雪の夜の話)
といった具合です。
国語辞書を見ても、この用法が普通であり、いい意味で使われたのはかなり新しくなってからということが分かります。
どうやら1997年には辞書の記述を変えざるを得ないほどに正の概念が広まってきました。
朝日新聞には1984年の記事に「画家が人間にこだわり描く」といった正の概念の用法が出ていました。
しかし、実はファッション誌などではそれよりも早く出ているようです。
1981年の主婦の友のファッション欄で、「男は服にこだわる」とありました。
さらに、文芸関係をたどると、文学批評の分野で70年代後半には正の意味でのこだわりという用法が出ているようです。
経済成長というものに関連し、GDPについてその胡散臭さがユーモアたっぷりに取り上げられています。
専業主婦の家事労働はGDPには加算されません。したがって、専業主婦を目の敵にするのだとか。
また、日本の住居は30年で無価値になる程度の安普請ですが、そのようなものにとどめておくのもGDP増加の効果があるためで、中古住宅の流通など増やしてもGDPにあまり反映しないからだそうです。
このあたり、ふざけて書いているように見えて結構真剣な内容かもしれません。