これは昔に買った本で、おそらく大学生の時に読んだものです。
著者の堀淳一さんは本業は理論物理学で、この本の出版当時(1972年)には北海道大学の教授だったのですが、ご趣味の地図と鉄道関係の著書も多数出版されており、今回調べ直したところこの本は1972年度の日本エッセイストクラブ賞というものを受賞されていたということです。
大学はその後1980年に退職、その後は趣味を究めて地図を片手の旅行、それを本に書くという羨ましいような人生を送っておられます。
本書は最初は子供の頃に地図好きに目覚めた頃の思い出などが綴られていますが、その後は各地の地図の魅力、描かれ方、そして時には測量上の不備の指摘まで、さまざまな観点から詳細に書かれています。
地図の図版、写真なども豊富に掲載されていますが、残念ながら印刷の質が少し悪いようで鮮明でない場面も多いようです。
執筆時の1970年頃には国土地理院から新たに二万五千分の一の地形図が、それまでの五万分の一のものに代わって発売されだした頃ということです。
しかし、測量は正確になったかもしれないものの、地図の描き方という面では必ずしも改善されているわけではなく、部分的にはかえって粗雑になった面もあり、堀さんはかなりそれにはご不満のようでした。
本業の方での海外出張に際しても、必ず当地の地形図を入手してから出発ということを守っていらしたようで、イギリスに初めて行った際にはそこの地図の入手が上手く行かず、最初にロンドンからオックスフォードに向かった際には地図無しでの旅行となり「ふだんどこに行くにも地図を時刻表を持っていき絶えず自分のいる場所を確認しながら旅行する週刊がついているので、なんとも心もとなく、まるで宙に浮いているように不安だった」と書かれています。
実に、地図マニアの心理を上手く描写されていて、思わず微笑んでしまうような場面でした。
当時の地図販売の状況についても苦言が呈されており、地図を入れてある棚の中でクシャクシャになっているものを売ったり、売り切れるまで新版を仕入れないといったことが挙げられています。
そう言えば、私も昔は地図を買いに書店に行き、同様の場面を目にしたなと思い出しました。
地図は面白いということを楽しく伝えられた、古い本ですが名著と思います。
この本は改版され新規発売されたもののようです。元は1972年発行、出版社は同様に河出書房新社でした。