フグはフグ毒(テトロドトキシン)を持っており猛毒ということは誰でも知っていることでしょうが、最近はこれは食物連鎖でフグが体内に取り込んでいるだけで、毒を作っているのは別の生物だということが徐々に知られてきたようです。
本書はその研究を長年やってこられた現在は東京医療保健大学教授の野口さんがフグ毒全般について書かれたものです。
著者がフグ毒研究をはじめたきっかけは実はフグそのものではなく、奄美大島の毒魚「ツムギハゼ」の研究からでした。
この魚が強い毒を持つということを研究していくと、その毒素が実はフグ毒のテトロドトキシンそのものであることが分かりました。
さらに、他の生物でもテトロドトキシンを持つものが広く存在していることが分かっていき、それまでの「フグ毒を作り出しているのはフグ自身」という観念が誤っているという仮説が立てられるようになったのです。
フグ毒を持つ生物がいろいろあるのとともに、フグの仲間でもフグ毒を持たない種もあり、また同じフグでも地域によって毒素産生が大きく違うということも分かっていきます。
フグ毒を持つ生物としては、上記のツムギハゼの他にもヒョウモンダコ、紐形動物のヒモムシ、扁形動物のヒラムシ、カブトガニの一種、地上に住むカリフォルニアイモリなど広い範囲の種にわたります。
そのため、これらの生物が食べる食物にその源があるのではないかと考えた著者らは、伊豆下田で取れたスベスベマンジュウガニの腸内細菌を培養し、海洋細菌のビブリオ・アルギノカリティスを分離し、フグ毒やその関連物質を作り出していることを確かめました。
この細菌が食物連鎖を通じてフグなどのフグ毒保有生物に蓄積されたフグ毒のもとではないかと考えたわけです。
最初にフグ毒を作り出す細菌やプランクトンが肉食性のヤムシ、ヒトデ、ハゼ、フグ類など、フグ毒に耐性を持つ生物に食べられ、その体内に蓄積して毒性を表しているようです。
フグは一般魚と異なり高いフグ毒耐性を持っているようで、そのために蓄積しても大丈夫なわけです。
フグはそれではフグ毒を持っていて何か良いことがあるのかということですが、これが実際にありそうです。
ヒョウモンダコというタコの一種ではフグ毒を使って餌の狩りをしているそうです。
また、フグ毒を持つことで天敵から身を守ることができるという利点もあります。
さらに、フグ毒を体内に持つことで免疫力が向上するということもありそうです。
陸上などで養殖されているフグにはフグ毒は含まれませんが、そのために病気に対する抵抗力が弱くなっているということがあるようです。
近年はフグの中でも特に高価に出荷できるトラフグを養殖しようというところが増えてきました。
しかし、どうやらこの養殖トラフグはフグ毒が弱いということが分かっています。
さらに海水を使わずに陸上で人工海水で養殖するということも始まっていますが、これらのフグには毒がない場合があるということも分かってきました。
フグ毒が食物連鎖で貯められるということは、まだ確定した理論ではありません。
他の説を唱える人もいるようですが、著者はほぼ間違いないという姿勢です。
そうなれば陸上養殖フグなどはフグ毒を持つ可能性もありませんので、たとえば現在は厳しく禁じられている肝臓の料理も食べることができるはずです。
こういった観点から著者らはそのような養殖業者や自治体と協力してフグ肝臓の食用利用を認めるようにという運動を繰り広げられていますが、今のところはまだ許可されていないようです。
この活動はまだこれからも続けていかれるということです。
そのうちにフグ肝料理も味わえるようになるのでしょうか。
他のサイトも調べたところ、どうやらフグ肝料理解禁に猛烈に反対しているのはフグ業界自身のようです。
フグの統制で得られている利権が無くなるのが怖いのでしょう。