爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「それでも企業不祥事が起こる理由 法令遵守を超えるコンプライアンスの実務」國廣正著

著者は弁護士で企業不祥事の際の対応を数多く手がけてきた方です。

本書は2010年出版ですのでそれまでの事件が取り上げられていますが、それ以降も不祥事発生は限りなく続いているようです。

各企業とも勉強はしているんでしょうが、なくなりません。

 

まず最初は「コンプライアンス」とはなんだろうかというところから解説です。

コンプライアンスを「法令遵守」と捉えてその対応だけを行うという勘違いも多いのですが、それで形だけの対策をすることでより大きな信頼失墜を招くこともあります。

 

例として、パロマ工業のガス瞬間湯沸かし器の不正改造による一酸化炭素中毒多発の事件が挙げられています。

この原因はあくまでも修理業者による不正改造であり、パロマの法的責任はあるとは言えないのですが、しかしコンプライアンスの観点からはパロマは企業として非難されなければならないというのが國廣さんの考えです。

 

それは、パロマにそのような情報が集まっていても何の行動も取らず、その結果として事故の多発につながったからです。

自社の製品に関係する事故があり、それが修理業者によるものであっても、再発の可能性が強ければ当然それは公表すべきであったからです。

 

ただし、こういった場合でも企業は弁護士に「法律上の問題点」について相談します。そして法律上の問題点だけを弁護士が答えるとそれで安心して放置するという姿勢を取り、それが大きな事件につながりかねないということです。

 

コンプライアンスの体制というものは、直接「リスク管理」につながります。

事件を起こした後の企業トップの記者会見では「あってはならない事故を起こし」ということが語られることが多いようです。

しかし、「あってはならない」という感覚ではリスク管理はできません。「ある可能性がある」のがリスクであり、その可能性をできるだけ小さくする(ゼロにはできない)のがリスク管理です。

 

それでも事件事故は起きるものです。

そういった時の対応、危機管理というものをどうするかによって最悪の場合企業倒産にもつながりかねません。

 

2002年に発覚した、ダスキン経営のミスタードーナッツでの無認可添加物使用の肉まん販売により、ダスキンも多額の損害賠償責任を負い、会社も危機に陥りました。

当該商品は2000年に販売されており経営陣はこれに気づいてすぐに製造を中止しました。

しかし、在庫が残っていたために販売を継続し、これに気づいた取引業者には口止め料を支払うという手段を取りました。

会社首脳陣もその後その事実に気がついたものの製品はすべて消費されており回収もできませんでした。

2002年になり匿名通報により発覚、大事件に発展しさらに担当者や首脳陣に対する損害賠償請求の裁判も起こされ、総額53億円の賠償ということになりました。

 

この教訓は、とにかく分かった時点で速やかに公表し謝罪することしかありません。

法令違反はすでに起こしてしまいその批判は受けるのは仕方ないことですが、その情報を隠匿し発表しなければ、その「隠匿」自体を社会から強く非難されることになります。

そちらの方が企業としては命取りになりかねないというものです。

 

情報隠蔽が最大の危機であるということ、それを著者は「二発目轟沈の原則」と呼んでいます。

これはおそらく昔の戦艦の海戦の話と思いますが、魚雷を受けても一発目はなんとか持ちこたえるが、二発目でおしまいということでしょう。

企業としても起こした法令違反が一発目、しかしここで的確な対応ができれば持ちこたえるが、情報隠蔽という二発目を食らってはどうしようもないということでしょうか。

 

ただし、企業としてもあまりにも消費者迎合という姿勢も問題です。

食品産業での事件事故が頻発していた頃、毎日のようにリコールが発表されました。

その中には、「クッキーの焼きムラがあったので回収」とか、「アサリの缶詰に砂が入っていたので回収」といったもののあったそうです。

このような企業対応は一見すると消費者尊重のように見えますが、実際はただの思考停止の消費者迎合に過ぎません。

このようなことでの食品の回収(そして廃棄)は大切な食物資源をムダにすることです。

消費者やマスコミもこういった「自分の首を締める」ような行為は社会責任に反することだということを考えるべきということです。

 

著者が企業コンプライアンスに関わるようになったのは、1997年に起きた山一證券の破綻調査からだそうです。

それまでは、弁護士が企業コンプライアンスに関わるということは一般的ではなかったそうです。

しかし、法的なことばかりではなくそれ以上に厳しいコンプライアンスについては、弁護士としての能力が重要になるとか。

さらにリスク管理を行ない未然に事件を防ぐということが必要になるのでしょう。

 

 

それでも企業不祥事が起こる理由

それでも企業不祥事が起こる理由