元衆議院議員で内閣官房長官や自民党幹事長も歴任された野中さんと、在日韓国人の辛さんが様々な差別問題について対談をしたという本です。
辛さんは在日韓国朝鮮人問題での発言もあり差別という問題については意見があるのは当然ですが、野中さんがなぜ関わってくるのかは分かりませんでした。
野中さんは政府高官である時代から他の政治家とは少し色合いの変わった方とは感じていましたが、迂闊にもこの本を読んで初めて知ったことがあります。
それは、ご本人が被差別部落の出身であり、そこから思い立って政治家の道をたどってこられたという経歴の持ち主であり、差別問題についても自ら厳しい体験をし続けて来られた人生であったということです。
最初は鉄道管理局に勤務されていたのですが、目をかけて世話をしていた後輩に陰で「部落出身だから」と陰口を言われたのに衝撃を受け、部落差別に対して戦うつもりで政治家となったそうです。
その後、町議から町長、京都府議、副知事、そして衆議院議員に進みました。
部落差別に対しては闘う一方、部落対策費用を利権として懐に入れようとするような同和対策事業を利用する行動には反対しています。
辛さんは在日韓国人として暮らし、家族は日本名で生活している中で本名を名乗って活動し、それに対して家族からも反発を受けたそうです。
そのようなお二人が、部落差別、外国人差別にとどまらず様々な差別問題ということを対談されています。
中にはまったく意見がすれ違って、批判し合うといった場面もありますが、これには野中さんが部落解放活動という面だけでなく長らく政治家として実際の政治に深く関与してきたからということも関係しているのでしょう。
理想だけではやってこられなかったというのも事実でしょうが、基本はやはりあらゆる差別に反対するということがあるのでしょうか。
内容はしかし、あまりにも重すぎるものが並んでいます。一つ一つを取り上げることは控えます。
ほんの数点のみ紹介します。
それに対し、野中さんが当時の村山総理に進言して破壊活動防止法を適用しました。
破防法は共産党と朝鮮人に対して作られた法律なのですが、それまでは実際に運用されたことがない法律でした。しかし、その時には絶対に必要と信じて適用したそうです。
しかし、その事件とオウム関係者はともかく、松本智津夫の子供たちまで犯罪者のように扱われるということになりました。
また事件後にはインターネット上では松本は「部落民だ」とか「朝鮮人だ」とかいったデマが飛び交ったそうです。
辛さんは、ここに多くの日本人が「日本人はいつも善良で被害者だ」と思いたがるという心理を見ます。
その「日本人」には部落民や国籍を取得した人や、アイヌもウチナンチュも含まれていないと言います。
そして自分たちの社会の問題に向き合わずに少数者を生贄にして済まそうとしているとしています。
この本はオバマがアメリカ大統領になった直後のものでした。
マスコミはオバマを「初の黒人大統領」と取り上げました。
しかし、彼は母親は白人、父親はケニア人です。
アメリカ黒人のような歴史的傷つき方をしていない。アメリカの白人たちが安心できる存在だったということです。
これを「黒人大統領」とだけ言うのは、ほとんど白人であってもほんの少しだけでも黒人の血が入っていれば「黒人」という、アメリカの見方そのものです。
日本でも、親のどちらか、祖父母の一人でも朝鮮人であれば「朝鮮人」と言われる。
このような純血主義というものに、白人や日本人は染まっているようです。
ということで、辛さんはその時点でオバマが何をやるか信じられないと語っています。じつに慧眼というべきでしょう。
差別について本当に考えられるのは、差別された経験のある人だけなのかもと考えさせられるものでした。
- 作者: 辛淑玉,野中広務
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2009/06/10
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