著者は防衛大学卒業後、同校の助教授や自衛隊幕僚として勤務、現在は退官して軍事アナリストという方です。
軍事革命(RMA the Revolution in Military Affairs)とは、18世紀末にフランス革命がもたらした軍事の大変革以来の大きな変化が現在起きつつあるというもので、それは現代社会で大きく変わっている情報革命によるというものです。
1991年の湾岸戦争では、情報技術(IT)や精密誘導技術を活用した兵器の使用が始まりましたが、この時はまだ従来の軍隊の運用・編成・組織は変えておらず、新兵器の追加使用に留まりました。
しかし、1999年のコソボ戦争では軍隊の運用法や編成が大きく変化し、戦いの形態も変わってきています。
RMA軍の運用原則は「要(かなめ)打撃」と「同時打撃」です。
要打撃とは戦場における要となる地点でしかも脆弱な地点を攻撃するというものです。
同時打撃は複数の目標を同時に攻撃することで、相手は対応策がとれなくなります。
このどちらも、情報化社会の特質を反映したものです。
相手の要がどこにあるのかを知ることが情報化社会では探ることが可能になります。そこを精確(精密かつ正確)に攻撃することがこの戦法の本質になります。
これまでの時代は言わば「工業化時代」でした。そこでの戦争は物的な力の重視、火力の重視というものになり、双方の主力部隊の激突という形を取りました。そして、それにより相手の国力を削いでいくという、「消耗戦」であったと言えます。
しかし、今後の「情報化時代」では戦いの形態も変化していきます。
脆弱な「要」を把握して一気に攻撃し、相手の指揮・統制機能を奪ってしまうという、「麻痺戦」とでも言えるようなものになっていきます。
そこでは火力を使った攻撃もさることながら、ネットを使ったサイバー攻撃というものも重要になってきます。
軍事組織に対するものばかりでなく、民間の金融機関や電力などのインフラ機関、交通網なども攻撃対象となります。
そこではこれまでの戦争にあったような「前線」というものはなくなります。どこに攻撃が加えられるか分からないものになっていきます。
巻末には近未来に日本に対してRMA軍が侵攻するとしたらどのようになるかというものが書いてあります。
各所に対するサイバー攻撃が実行され、さらに自衛隊の防空システムに対するサイバー攻撃も成功すれば航空侵入が可能となります。
高速ヘリを用いた少数部隊が何箇所も同時に攻撃をしかけ、各地の自衛隊司令部から破壊する戦法が取られることになります。
ほんのわずかな間に一地方が制圧されることにもなりかねませんが、自衛隊主力が組織的な反撃を開始できるのは相当遅れることになりそうです。
歴史的にここまで大きな軍事の変革はそう多くはなかったようですが、小さな改革は何度も起きてきたようです。その度ごとに、戦法の変化を掴めなかったものは大敗を喫してきました。
今回の軍事革命もその本質が理解できないものは大きな痛手を被ることになるのかもしれません。