東山魁夷さんといえば高名な日本画家であり、文化勲章受賞者ですが、その代表作としては皇居新宮殿の壁画や東宮御所壁画などがあります。
それと並び有名な作品に唐招提寺の御影堂の障壁画があり、1975年に完成するまでに約10年の歳月をかけました。
本書はその障壁画完成の直後に、東山魁夷さん本人がその制作過程についてを書かれたものです。
1965年に御影堂を移築した際に、当時の唐招提寺長老であった森本孝順師より障壁画作成を依頼され、その荒波と山林の風景にふさわしい情景を探して日本中を歩きまわったそうです。
日本海の荒波の写生でも青森から石川、京都、山口と各所でデッサンを行い、山林の写生では上高地、黒部、飛騨、穂高と回っています。
このような苦労も、本書の最初に触れてあるように中国から幾度もの船の難破に遭いながらも日本に仏法を伝えるために渡来した唐招提寺開祖の鑑真和上の苦労には及ばないというのが作者の想いのようです。
なお、本書に描かれた部分は日本の風景を描いた彩色画であり、その他に中国の風景を描いた山水画が続いて描かれたのですが、この本にはそれについては触れられていません。
ちょうど現在は御影堂の修復工事の最中で、障壁画も拝観できないようです。
是非一度見てみたいものです。