爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「食のリスク学」中西準子著

日本においてリスク論を確立した中西さんですが、それは中西さんがそれまで携わってきた環境学に関連して発展させていきました。

しかし、以前から中西さんがネット上で続けてこられた「雑感」というブログの内容を振り返ってみると、食に関するものが多いということで、「食をリスクで考える」というものを本にしてみたというものです。

 

本書は4部構成になっており、第1章は東大大学院でのリスクトレードオフというものについてのスピーチの内容です。

第2章は群馬大学教育学部の高橋久仁子教授との対談ですが、高橋さんといえば日本にはじめて「フードファディズム」というものを紹介された方です。

このフードファディズムに関する本は私も2000年ごろに読んで非常に衝撃を受けたものです。

第3章はこのブログでもしょっちゅう引用している「FOOCOM.NET」の松永和紀さんとの対談です。

第4章は上記の中西さんのブログ「雑感」からの記事を転載しています。

 

リスクトレードオフというのは、全てのことには必ず「リスク」があり、何らかのリスクを避けようとしてかえって別のリスクを負うことになるので、どのリスクを選ぶのが総合的に最もリスクを少なくできるかという判断をするということです。

例えば、1990年代のペルーで水道水の消毒に塩素を使うと発がん性物質トリハロメタンが生成するからといって、塩素消毒を止めたことがありました。しかし、その結果コレラが大発生し多くの死者が出ました。

トリハロメタンのリスクを無くすという行動がコレラ発生のリスクを産んだわけです。どちらのリスクを避けるべきかは明らかでしょう。

著者はさらにBSEのリスクと全頭検査に費やす費用のリスクも比較しています。

どんなに小さなリスクでもBSEを止めるためには多額の費用をかけても良いといった風潮がありますが、金額のリスクというものも無視してはいけません。その金額を他のリスク軽減に使えなかったために被る被害もあるということを考えなければならないということです。

 

高橋久仁子さんとの対談ではやはり話題はフードファディズムになります。

フードファディズムとは食べ物の身体に良い悪いという情報を過大に評価して行動することで、それを商業的に利用する業者も数多く存在します。

きちんとした食知識を身につけることが第一なのですが、実は学校の教員や栄養士などもその知識があやふやで、テレビなどの知識を丸々信じてしまうということがあり、危険をはらんでいるようです。

 

松永さんとの対談では、食に関する問題を多数取り上げて討論しています。

例えば、中国産食品の安全性や食料自給率、遺伝子組み換え食品などですが、この辺は松永さんの著書も読んでいますので、その主張には見覚えがあるものです。

 

最後の章のブログからの転載では、2003年に厚労省から出された魚介類の水銀汚染に関する注意喚起のおかしな点について批判されています。

キンメダイの摂取は週2回以下にということが出されてキンメダイ漁業者に衝撃を与えたのですが、実はその際のデータではマグロの方が遥かに問題だったということです。

しかし、マグロが危険ということを打ち出すと大きな影響が出るために比較的消費の少ないキンメダイを取り上げたとか。

マグロであってもリスクをきちんと評価してデータを出すべきであり、それから逃げたような中途半端な姿勢が政府のやり口なのでしょう。

 

リスク論というものは少しとっつきにくいものかもしれませんが、覚えておくと非常に価値のあるものと思います。