爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「食をめぐるほんとうの話」阿部尚樹、上原万里子、中沢彰吾著

食に関する話というのは疑わしい物も多く、また製造者や販売者の思惑もからみ怪しい話が横行しています。

そこのところ、「ほんとうの話」と銘打ってあれこれと書いているといのが、東京農業大学の阿部さんと上原さん、そしてノンフィクションライターの中沢さんです。

察するところ本の構成と細かな文章の組み立ては中沢さん、専門的な内容は阿部さんと上原さんがチェックしたといったところでしょうか。

そのためか、専門知識に関する部分にはどうやら間違いはないようで、非常に詳しくしかもかなり最新の話題が取り上げられています。

また、専門家の本に有りがちが文章のつまらなさという害からも逃れられています。

 

なお、農大の応用生物科学部には「食品安全健康学科」という学科が設置されており、お二人はそこの教授ということです。現代の最先端であり最重要な学問分野を担当されておられる学科であろうと思います。

 

本の内容は、

第1章 安全な食生活を脅かすもの 食品汚染と添加物

第2章 もう振り回されない!健康情報の基礎知識 三大栄養素とビタミンの真実

第3章 その健康食品やサプリは本当に効くの?ポリフェノール、リコペンセサミンほか

第4章 「漠とした不安」の正体を探る 農薬・遺伝子組み換え・放射線ほか

第5章 「東農大の学食」に見る現代食文化考

となっており、食に関する様々な問題については広く触れられているようです。

しかし、さすがに取り上げきれないところもあり、最後にあるように、「重要な栄養素であるミネラルや数種類のマイナーなビタミン、多くの機能性成分などの情報を積み残してしまいました」ということで、新書版という制約があったのが惜しいところですが、大きな本では読みにくいですから妥当なところでしょう。

 

本書の最初に強調されているように、添加物や残留農薬などあるかないか分からない程度の害が喧伝される傾向が強いのですが、実際は食の一番の危険性は食中毒です。

それも微生物の食中毒は現在でも頻繁に起きています。

それを防ぐためにも食品添加物を適度に使うことが必要なのですが、昔の状況の名残もあり添加物に対する偏見が強いようです。正確な現代の知識で賢く使いたいものです。

 

ダイエット熱のせいで、炭水化物を取らなかったり、脂質を制限したりとおかしな話になっていますが、これらもその栄養的な意味をきちんと知ればそれが危険なことは良く分かります。

ビタミンも不足は死に至る危険がありますが、過剰摂取も危険な場合があります。

 

健康食品、サプリに関する記述では、機能性食品表示制度についても取り上げられています。

また機能性を持つ成分についても細かく説明されていますが、化学構造式まで載せているのは当然といえば当然なんですが、嫌いな人もいるでしょうね。

ポリフェノールももはや明白な健康成分とばかりに言われていますが、実際はまだ分かっていないことが多いようです。

イソフラボンは摂取量が多いほど乳がん罹患率が低くなるという調査結果があったのですが、これも実は有効な人と無効な人がいるということも分かってきたそうです。

イソフラボンはそれ自体は実は有効な作用が出ないということです。それを体内の微生物が化学変換し、エクオールと言う代謝物に変化させて初めて効果が出るのですが、その反応を行う微生物の種が限られていて、それを持たない人はいくらイソフラボンを摂取しても効果が出ないとか。これは知らなかった。

 

アントシアニンは目に良いと言われていますが、これは眼精疲労回復作用であるということです。ビタミンAを使用して供給が追いつかないと疲労が回復しないのですが、それを補う作用があるとか。

したがって、「視力が良くなる」とか、「目の病気に効く」というのは間違いのようです。

 

こういった極めて正確な本もあるのですが、本屋でも図書館でも食品関係の本棚の本のほとんどはまったく違ったものであり、間違った知識のオンパレードです。

その中では本書は地味な新書で、あまり手に取って読まれるという機会も少ないのではないかと思います。いささか残念な話です。