最近勝川俊雄さんの「漁業という日本の問題」という本を読みました。
2012年の出版で日本の漁業の乱獲という問題を扱ったものだったのですが、本書はイギリス人のジャーナリストのクローバーさんが2004年に書かれたものですので、状況は若干違うようです。
勝川さんの本ではITQ(個別漁業枠制度)がアイスランドやノルウェーなどではすでに効果を発揮して漁業資源の回復が見られるとなっていましたが、本書の中ではアイスランドで制度の運用が始まり効果が期待されるという段階の記述です。
本書記載時点ではまだまだヨーロッパなどでも大型漁船での乱獲、不法操業はひどいものだったようで、その実態告発といった様相が強いものになっています。
また、さらにそれらの資源に寄りかかったままで資源回復になどはまったく思いを馳せようともせず、高価な料理を楽しむだけの一流シェフや顧客に対しても批判を向けています。
カナダのニューファンドランド沖は昔はタラの漁場でした。しかし、そこでの乱獲は激しいものでしたが、漁業科学者たちはその資源は無尽蔵でありまだまだ十分にあると称していた時代があったそうです。しかし、その直後にタラはまったく取れなくなる資源崩壊が起きてしまいました。
1970年代にはカナダの漁業海洋省という担当官庁はそこでのタラ資源は十分でありまた少しの漁獲制限ですぐに回復するとしてその政策を実行しました。しかし、その結果は瞬く間に現れてしまい、ほぼ完全に漁獲がなくなってしまったのです。
今になってそのグランドバンクスという漁港のエビ取り漁師が間違ってタラを捕獲した場合は、1匹あたり500ドルという罰金が取られるという制度が作られましたが、実際にはほとんど混獲でもタラが上がることはないほどに、資源が崩壊しているということです。
魚料理をもっと食べるようにというのは、健康志向の風潮からもよく言われており、欧米でも当地の魚料理の他に日本の和食なども喜ばれるということになっています。
しかし、その有名シェフたちも彼らが使っている魚がどのように取られているかということには関心を向けないようです。
アメリカ各地に高級料理店を開いているノブユキ・マツシタという日本人料理人の店にはクリントン、アガシ、デカプリオなど政財界、芸能界などの有名人が詰めかけていますが、そこではアワビ、キャビア、クロマグロなどが供されています。しかし、これらの高額な料理の材料はいずれも絶滅が危惧されている魚種であり、それについての考慮は全くされていないようです。
著者は彼の店にそれらの材料の調達について問い合わせましたがまったく答えは得られませんでした。
ITQ制度はアイスランドで16種の魚について実施されていたということです。漁業者もその制度実施以降は考え方が変わり、漁獲高の量というよりは魚の質について考えるようになったそうです。
また違反した場合の罰則も非常に厳しく二度と操業できなくなるようなものになっているために実効性も高いとか。
養殖業についても危険性を指摘しています。沿岸で実施するために汚染の心配が大きいこと、さらに餌として大量の魚粉などを使うことから、持続性について疑問があります。
現状で資源回復状況から見て食べてはいけない魚種、まだ安心できる魚種が挙げてあります。
絶対に食べてはいけないもの 大西洋タラ、クロマグロ(本マグロ)、キャビア、帆立貝等
ちょっと不安なもの カレイ・ヒラメ、マグロ、エビ
最後に著者は必要な政策が取られて資源回復した夢の将来の像を描いています。
海洋の50%以上は禁漁区として漁獲は許さず、漁業可能な場所でも使える漁具は根絶やしにすべての魚を取れるような網ではなく、目的魚だけを取る方法だけに限るというものです。
このようにすれば大きくなり産卵を無事に済ませられるような魚が増えるということです。
こういった世界では今のように安い魚をふんだんに食べるということはできないでしょう。しかしそうせざるをえないと思います。
世界の海では魚類の資源というのは危機的状況であるというのは間違いないようです。
しかし、どうも日本人の感覚はこの問題に対してあまりにも鈍いように見えます。
クロマグロの問題でも、ニホンウナギの絶滅危惧種入の問題でも、報道では「もう食べられなくなるのか」といったセンチメンタルなものばかりで、どうすれば絶滅を防げるのかといった視点の報道はほとんど見られませんでした。
ウナギは完全禁漁といった施策がすぐにでも取られなければならないのでしょうが。