爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「顔立ちとパーソナリティー」須賀哲夫著

フランスには人の顔付と人柄とは密接に関係があるという「相貌心理学」というものがあり、一定の支持を得ているようです。
これは1940年ころにルイ・コルマンという小児精神科医が発表したもので、コルマンの著述だけでも10冊以上、その他の関連書籍も多数あるようですが、日本にはほとんど紹介されていません。
日本では心理学というと心理テストを実施して診断するというのが普通に思い浮かべるもので、人の顔付が性格に関係があるというと迷信扱いをされそうですが、実はコルマンらの方法論はそのような本人に対する質問票を用いるということは排除しています。
質問に対して答えるのは分析すべき対象本人であり、本人がありのままを答えるとは限らず、また子供や認知症の人などは十分な答えを得ることができないと思いますが、その点もしっかりとした説明がありません。
税務署員や検察官は質問に答えただけで満足するはずもなく、必ず裏を取る調査をするはずですが、心理テストではそのような手間をかけることはないようです。

それでは相貌心理学ではどのように調査をするかというと、行動パターンを客観的な事実だけで見るということです。そして顔付というものも客観的に観察することが可能です。そのような客観的事実だけを組み合わせて結論を導く方がより科学的であるという立場です。
まあ、当然ながらこういった方法には相当な反論があるでしょうが、この本ではとにかくこういったものがあるということの紹介だということで、いろいろな人・現存や故人を問わず、どのよな人生を送ったかが明らかな人で写真や肖像がはっきりしている人の例を提示し、その判断を仰ぐというわけです。

例には加藤紘一さん、小泉純一郎さんなどの政治家、松井秀喜さんやイチローさんといったスポーツ選手、さらに与謝野晶子や柳原白蓮といったすでに亡くなった歴史上の人物まで取り上げ、その人々の行動・言動など広く知られている事例とその風貌との関係を論じています。

コルマン理論では顔を3つのゾーンに分けて理解します。目から上の額を中心としたゾーンが「頭脳ゾーン」、鼻と頬を中心とした中央部が「感情ゾーン」、鼻下から顎までの口を中心としたものを「本能ゾーン」と考え、それの発達度などを考え併せて理解していくというものです。

実例として挙げられている松井秀喜選手について、著者も繰り返し書いているように当然ながら著者は松井さん本人とは面識もなく直接はまったく知り合いではありません。しかし、テレビなどで会見の模様などは良く見ている。実はそのような「誰でも同じようにアクセスできる客観的なデータのみを使う」ということが重要だということです。
それらから引き出される観察結果は、インタビューには積極的に答えてそこでの主役となること、そして地震などの被災地にいち早く義援金を贈ることなど、そのような行動からパターンを得るということです。

顔付から人の性格を当てるなどというのはどうせ「インチキ科学」の類かと思っていましたが、なかなか一筋縄ではいかないもののようです。心理学というもの全般にかかわる方法の再検討を迫る内容になっていますが、この相貌心理学自体も妥当なものかどうかはちょっと怪しいものではないかと疑わざるを得ない内容と思います。
まあ、あまり実用性があるとは見えないのですが、方法論の再検討という意味では非常に興味深い内容だったと思います。