爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「戦術と指揮 命令の与え方・集団の動かし方」松村劭著

この本はかなりの珍品かもしれません。
著者は自衛隊陸相補まで勤めた松村さんですが、あとがきに正直に告白しているように、「この本の執筆を依頼された時に内心驚いた。軍事にまったく関心のない日本で読者が得られるのだろうか」という感想そのものと言うべき内容です。
歴史的な戦いの戦法等についてはいろいろの解説なども出版されていますが、現代の戦争の戦法というものについてはほとんど見たこともありません。騎馬や弓矢、せいぜい火縄銃を使う戦争というものはそれについての研究がなされ、書籍も出版されるなど一定の興味を引くものの、戦車や装甲車、そしてヘリコプターや航空機を用いる戦争、すなわち現代の通常兵器による戦闘についてはこれまでほぼ無視されてきたと言えるでしょう。
しかし、どなたが著者に執筆依頼をしたのかは知りませんが、なかなか興味深いものとなっています。

軍隊の組織というものは詳しくはわかりませんが、著者は参謀というスタッフ部門を担当してきたようです。旧日本軍当時もそれほど変わりはないのでしょうが、参謀とは指揮官を補佐しいろいろな作戦を提言する立場ということです。しかし、決定は指揮官の権限にありそれについては口をはさむことはできません。
その立場からの戦術というものはどういうことかというものを、非常に詳しく具体的にシミュレーション例を挙げて取りうる作戦の選択肢もあげ、なぜそれが良いのか、そしてどれは悪いのかということを説明しています。
歴史的な戦争とは火力、機動力がまったく異なりますが、戦うのは兵士という人間でありその行動原理というものは昔と変わらないのかもしれません。
したがって、取りうる作戦には空挺部隊を用いたパラシュート降下や、戦車による集中砲火、艦船からの援護射撃、装甲車と歩兵による制圧などなど、とにかく現実の軍事行動そのものです。

知ったからと言ってほとんど応用の機会があるとも思えない知識ではありますが、やはり興味深いものがあります。
例えば、どんな局面であってもほとんど逃げ場のない部隊であろうと指揮官が見捨てたと思われる行動を取ると、ほかの部下の忠誠心は極度に低下し指令が不可能になるという指摘は、旧日本軍でそれに反する戦術が横行していたことを思うと厳しいものです。実際にそのようになっていたのかもしれず、戦意というものは太平洋戦争末期には残っていたのかも怪しいと思います。

まあ一応、このような戦術論も実社会に応用できる部分もあるかもとは著者も書いていますが、あまり無さそうとは思います。