爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「江戸のまかない 大江戸庶民事情」石川英輔著

江戸文化についてさまざまな研究成果を各所に発表されてきた著者がそれまでの文章をひとつにまとめて1998年に「雑学大江戸庶民事情」という本を出版したのですが、その後もそのような文章がたまったので、それらもまとめなおして2001年に出版したと言うのが本書です。内容については発表当時のものに相当加筆している部分もあるということで、初出を掲載することは控えたということですが、かなり前からのものも含まれるようです。

著者は小学校6年の時に第2次世界大戦敗戦であったということですので、戦前からの教育を受け、さらに戦後の風潮もよく知っているというところから、西洋崇拝と自国文化の軽視という一般の文化の傾向に対しては非常な反感を持っていることがよく判ります。随所にそれを批判した部分が目に付きます。それに反発して江戸文化についての調査研究に力を入れてきたかのように見えます。

著者が江戸文化について調べ始めたのは、1979年からということです。最初はSF小説執筆から文章を書き始めたのですが、江戸時代に舞台を定めた小説を書こうとして色々調べたということです。しかしなかなか細かいところまでは判らないことばかりで、その中で林美一という人の「時代風俗考証事典」という本を参考にしたのですが、出版後にご本人から連絡がありいろいろと指導をされるようになったということです。
林氏の指導で一番役に立ったのが、「江戸時代の絵師は細かい部分まで正確に書いている」という事実であり、それがその後多くの画集を収集してそこからいろいろな事実を抽出していくということにつながったそうです。

「江戸のたのしみ」という項では、数多く出版された各種の「番付」や川柳、狂句の流行などについても記述されています。相撲のものになぞっていろいろな事物の番付を作ってしまい出版ということが流行したようで、種々の番付があるそうですが、御菜の番付(おかずの番付)なるものも残っており、当時の普通の食事のおかずというものを知るための良い資料になるそうです。

江戸の土地の利用については、武家地が69%、寺社が15%で、町屋は16%だけと言う数字が出回っており、これは私もどこかで見たような気もしますが、著者によればこれはまったく根拠のない数字だそうです。そもそも、江戸の範囲内(墨引内、朱引内)であってもかなりの農地があるはずで、復元した地図を見ても農地がほとんどないと言うのは神田日本橋京橋芝といったところだけで、それ以外のところには非常に広い農地が描かれていたそうです。それを計算に入れずに69%などと言ってもそれは意味がない数字になるようです。
そこで、著者は独自に地図を区分して積算すると言う手法で利用区分を計算しなおして見ました。それによると朱引内で、農地49%、武家地35%、町屋10%等ということで多くは農地と言う結果だったようです。
この辺の数字と言うものは、自分で調べなおした価値というものは大きいように思います。大きすぎる武家地の数字にまず疑問を持つと言うのも普通の人にはできないことですが、調べなおすというのはますますできないことでしょう。たいていは、69%というのを引用して済ませるだけでしょう。

なかなか面白い見方というものを教えてくれるものです。