爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「誤解だらけの電力問題」竹内純子著

著者の竹内さんは東京電力に勤めていましたが、現在はNPO法人の理事などをされているということです。
電力会社の内部からの見方というものはなかなか素直には伝わってこないもので、それを聞く側も疑ってかかるということもあるでしょうが、電力会社側の意識も経験した著者が電力問題についてわかるだけの事実を記しているということは一見の価値があるものかもしれません。

電力についてはいろいろな「神話」ができてしまっています。本当のところが上手く説明できていないということもあるのでしょうが、エネルギーに関する人々の期待や不安も神話形成の要因なのでしょう。

著者は実際に自宅に太陽光発電装置を設置しているのですが、その稼働率は最初15%だったそうです。しかも給電が途絶える(停電する)と太陽光発電装置も自動的に停止してしまい、緊急時には役に立たないようになっているとか。これは、不安定な電力であるために電化製品に悪影響を与えないようになっているそうで、それを避けたければ蓄電池を備える必要があるのですが、それも設置当時で数百万円かかるとかであきらめたそうです。まだとても自立した電力供給源とは言えないようです。

太陽光発電の推進のために全量固定価格買取制度(FIT)という制度がスタートしていますが、日本では特にその開始にあたり発電業者を育成するために高い買取価格になってしまい、今後も消費者負担が大きくなる可能性があるということです。早急にこの制度の修正を図らなければ問題が大きくなりそうです。
ドイツの電力事情についての神話というのも根強いのですが、脱原発、再生エネ、自由化という電力変革が先行しているというイメージです。しかし、実際は国内で大量に採掘される褐炭を使った火力発電が相当な比率を占めている上に、ヨーロッパ内で電力網が張り巡らされているために実態は異なるようです。さらに、自由化が進み電力業者の増加が一時的には進行したのですが、その後ほとんどが破綻してしまい、結局は以前より寡占化が進んでしまったということです。また電力料金も燃料費の上昇を上回る割合で上昇してしまっているとか。
これには再エネ支援のFITの影響も強く、2014年には平均的家庭で年間3万円ほどの負担になってしまっています。ドイツ環境政策のなかでもっとも高価な誤りだったと評する人もいます。

電力の事情についても細かく解説されています。電力会社の社員の特性として、とにかく「安定供給」ということが最初に意識されるということです。最近の日本ではほとんど停電というものも起こりませんが、需要と供給のアンバランスから周波数変動が起こると機器の安全のために自動的に停止してしまうことが起き、それが連鎖することで大規模停電になることがあるそうです。これが起きると復帰には相当な時間がかかるために影響も莫大になるとか。
供給能力と需要の間には最低限の余裕がなければいけませんが、それは3%となっているそうです。しかし、巨大発電所が一つなんらかのトラブルで止まると一気に3%を越える事態もありえるために、危険性はあるようです。
そのような事態に備えて各電力会社の間の相互供給を増やすということも必要ですが、東西日本の間には50Hzと60Hzの壁があり、これは簡単には越えられないものです。周波数変換装置を拡充するという対策も考えられますが、その費用は莫大なもので、それくらいなら各地に予備の発電施設を新設した方が安いかもしれないようです。
また、再エネも風力は北海道が適していて太陽光は南と言えますが、それを融通しあって平準化といってもそれを互いに送りあう送電線を新設しようとするとこれも多大な費用がかかり、数兆円とも試算されるようで、単純に日本全国を連携化というわけにもいかないということです。

自由化で発送電分離などとはよく言われることですが、実は何を自由化するか、また発送電分離とは何かということもあまり理解されていないようです。
実は電気事業の初期には小さな会社が乱立し発電、送配電ともに並行してやっていたために同じ建物に別の会社の送電線からつながるといった無駄が多かったのですが、統一されてそれはなくなりました。現在、発電や電力小売事業には参入事業者があるのですが、送配電は自由化というわけには行かない事情があり、その場合送配電のみ従来の電力会社にやらせ、発電・小売には参入業者というのも無理がありそうです。

原発事故のために電力会社に対する見る目が厳しくなっていますが、電力供給ということを考えていく上では現在の電力会社を抜きにしてはできません。きちんとした対応が電力会社とその他の社会すべてに必要でしょう。