爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「収奪の星」ポール・コリアー著

著者は経済学者でオックスフォード大教授ですが、世界銀行の開発研究ディレクターやイギリス政府の顧問も勤めたという、アフリカなどの貧困についての研究をしてきたようです。

自然というものはもともとは誰のものでもなかったのですが、いつしか所有権が発生し利用するようになってしまいました。しかし、その利用の仕方というものは最良とは言い難く資源の枯渇や汚染などで人類の将来も危うくするようなものになっています。
そのようなものの中から、アフリカなどの低開発国の地下資源、公海の魚類、森林資源などについて論じ、そして温暖化の危険性なども触れています。

ただし、経済学者の常として科学技術については定説(一番勢力の強い学説)をそのまま鵜呑みにしているようです。そのために温暖化は二酸化炭素の増加によるためであり、このまま行くと大変なことになるとか、太陽光・風力・原子力の技術は今後も進歩を続けやがて人類の使うエネルギーをすべて満たすとかいった見解を取っていますので、「大丈夫かな」という結論にはなっていますが。

鉱物や石油などの地下資源はアフリカに多くあるようなイメージがありますが、著者によれば単位面積あたりの資源量をとってみてもアフリカは決して多くは無くOECD加盟国の方がはるかに多いそうです。しかし、そのほとんどは手付かずであるということや、まだ探査が進んでいないと言うことも考えると当分は開発して収入を得る余地が大きいそうです。
しかし、「資源の呪い」という言葉もあるようで、このような低開発国では資源があることでかえって成長できないということが往々にして起こるようです。その原因としては政府や権力者がその利権を私物化してしまうことが多いとか、国民のために使うとしてもその使い方がまったく見当違いのために生産性向上には役に立たないということがあるようです。
一番有効な方策は資源の利益をすぐに使うのではなく、基金として保有しそれを運用して運用益のみを政策で使うということなのだそうですが、そこまで到達できる国はほとんどないようです。

資源の価格がどのように推移するかという点について、アメリカの学者ホテリングが提唱したホテリング・ルールというものがあるそうです。枯渇性の資源の価格は長期的に見れば世界の長期利子率と同じ率で上昇するということなのだそうですが、これについては異論も多いようです。地下資源については、採掘コストの変化というものが避けられないのですがこれがホテリングは考慮していなかったようです。石油を見れば明らかなことです。

魚は自然資産かということを1章を設けて論じていますが、このような再生可能と見られる資源こそ枯渇する可能性も強いそうです。再生可能な資産というものは毎年再生産されるのでその分は消費しても良さそうですが、この量というものがまったく判らずに再生不能になるまで気付かずに消費し続けるということでしょうか。
魚類の場合、養殖を行って生産をコントロールすることも一部で行われていますが、多くは公海上で勝手気ままに取られているようです。これを制限することは非常に難しくなっていますが、著者が指摘するように漁業権というものは本来存在した権利ではなかったということ、漁獲が困難だった時代には意味があったかもしれないが簡単に魚種絶滅までできる状況になったにも関わらず漁業権なるものを認めているのは限界ではないかと言うことです。
同様に、森林を伐採する権利というものも現在では土地の所有者に帰属するようになっていますが、本当にそれで良いのか疑いだすときりがないようです。際限のない森林伐採二酸化炭素吸収ができずに酸素供給が危うくなっています。これも土地所有だけで森林伐採を勝手にさせているためかもしれません。

自然資産は所有したがるくせに、自然負債ともいえるものは誰も所有したがらないようです。二酸化炭素がそれに当たりますがこれをめぐる争いは中世のキリスト教会での免罪符販売を思わせるそうです。二酸化炭素排出権の取引というものは、まさに免罪符の購入と同じ様式になっています。それが何の役にも立たないのも同様のようです。
効果的にするには、全世界で二酸化炭素排出に比例した炭素税を取る事、たとえば1トンにつき40ドル払わせることが解決策であり、これを先進国、途上国を問わずすべての国で実施することだそうです。まあ無理でしょうが。

自然に関する3つの幻想というものがあるようで、1.小農礼賛 大規模農業ではなく家族経営の小さな農場での農業が良い。 2.遺伝子組換え作物の禁止 ヨーロッパに見られる遺伝子組換え忌避はアフリカも巻き込んでしまっている。 3.アメリカのバイオ燃料推進 ということです。これらが食糧供給の上で非常に悪影響を与えており、食糧価格の上昇につながりそれが途上国での政情不安を起こしているということです。これは確かなことかもしれません。

自然資源利用の危機に対する対応は国際協調が必要ということです。現在の国家はせいぜい国民の利益だけを求めており(ひどいところはそれも無いか不十分ですが)それ以上の世界的利益の達成を目指す仕組みはまったく不十分です。
こういったことができるようになるでしょうか。難しいものでしょう。これまでのほとんどの国際的な取り決めが効果が出ていないことからもわかります。結局将来は暗いということなのでしょうか。