爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「反三国史」周大荒著

著者の周大荒は中国の清の時代の末期に生まれ中華民国建国時に生きていた人ですが、専門の作家ではなく政治家や官僚などをしていたようです。細かい経歴等は良く分かりません。
魏呉蜀の三国時代を扱った三国史演義は中国でも人気のある話ですが、元になる史書の三国史三国時代が終わってすぐ次の晋の時代に書かれました。したがって、まだ登場人物の子孫も多くまた晋が魏を継続した王朝のために他の王朝の評価は厳しいものであると言うことはよく言われていることです。

著者はそのような史書に異議を唱え、今残っている三国史、それを基にした三国史演義というのは実は改ざんされたものであり本当の歴史は違ったものだと言うことを主張してこの反三国史を書いたと言うことですが、まあそのような名目はともかく、人気のある蜀が天下を統一したということが書きたかったんでしょう。
また、著者の生きていた当時の中国の情勢をこの本で風刺したい意志もあったのではないかということです。

さすがに劉備の最初から書いていたのでは面倒だったのか、徐庶がその母親を曹操に拉致されたために、正史では曹操に仕えることになってしまいますが、この本では劉備の配下がそれを見破り鮮やかに母親を取り戻して徐庶を連れ戻すと言うところから始まっています。
馬騰曹操に殺された息子の馬超なども劉備のもとにたどり着きともに戦うということになってしまいます。

とはいえ、蜀の側は完全に軍規は厳しくまた敗将にも礼を尽くして対応するためにどんどんと配下に加わり、対する魏や呉は裏切り、策謀が横行していくということで、蜀の天下は瞬く間に達成されると言うことになっています。

全体として軍の侵攻などは実際に蜀が勝利していればこうだったろうということにはなるのでしょうが、一つ一つの闘いの描写は簡略化したもので、やや退屈なものかもしれません。
闘いの様子も清末当時の古代の戦のイメージなのかもしれませんが、何千何万の兵を率いていっても闘いは大将同士の一騎打ちで決まると言うのが暗黙の了解で、逃げ出すところに兵が襲い掛かるという類型化ができています。
これは封神演義を見てもそのイメージで戦を描かれていますので、伝統的なものなのかも知れません。日本でも「とおからん者は音に聞け」という一騎打ちがあったというのが伝説ですので似たようなものかもしれません。

まあ他愛のない話なのですが、大衆小説の系譜に則っているのかもしれません。