安保法制の成立ということで平和憲法が軽視され戦争をする国家となったという点に着目した論議がほとんどですが、私はここに「代議制民主主義」すなわち選挙で選んだ代議士が政治を行うシステムの危機と言うものを見てしまいます。
現在のほとんどの民主主義国家が取っている代議制というものは、近代国家では不可避とも思えるものです。理想的にはことあるごとに有権者がすべて集まって討議する直接民主制というものが良いのでしょうが、どう考えても数万人以上の集団ではそれは不可能でしょう。
しかし、代議制というものの落とし穴は、選んだ代議士がすべて自分の思うような政治行動を取ってくれるとは限らないというところにあります。
さらに日本の場合、国会議員にはリコールの制度が無いということもあり、任期の間は何をされても止められないということにもなります。
そのような側面を突いているのが、小泉の郵政選挙、安倍のアベノミクス選挙と言うことができます。できるだけ選挙の争点を単純化し有権者の受けの良いものだけに集中してその他の政策については公約一覧には載せるものの強調はしないと言う手です。
アベノミクスによる経済成長ということばかりを強調した前回選挙でもその公約の中には安保法制、TPP推進、原発再稼働ということがそれとなく書かれていたようです。
そうして政権を取ってしまえばあとは任期の間はやりたい放題。
こういった政治状況の実現には現在の小選挙区制と言うものも大きく関わってきます。小選挙区制はそれまでの1都道府県が定数3や4の中選挙区に分けられていた制度から転換されましたが、その目的としては政権交代を容易にして二大政党制を目指すというものがあったと思います。
いまだになぜ二大政党制が良いのか訳が分かりませんが、お手本のアメリカがやっているから良いということなのでしょう。
しかし、その結果自民党という巨大政党の中の派閥というものが弱体化し、総裁というものに権力が集中するということになってしまいました。
異論と言うものも出なくなり、ますます総理総裁を中心とする政権中枢の勝手が通るということになりました。
こういった状況下では、誰にとっても「すべての政策を支持できる」政党というものはほとんど在り得ないことになります。
自民党支持者であってもすべての政策を支持できるという人は少ないでしょう。(何も考えられないのでお任せと言う人々は除きます。結構多そうですが)
私自身も投票するとすれば野党側ですが、それでもそれらの政党の政策には支持できないものも多くあります。支持できない点が一番少ない政党を仕方なく選ぶというのが実情でしょう。
しかし、それでも投票した以上はその代議士に「全権委任」したことになります。
その任期の間に期待とはまったく違う行動を取られても手の施しようはありません。
ここはやはり「国民投票」を制度としてはっきりと確立するべきではないでしょうか。
何でも一々国民投票にされても困りますが、一定の人数の国民投票請求がなされれば実施し、その政策については多数決で決めるということにならないものでしょうか。
そしてもちろん政権党といえど国民投票の結果には拘束されるということにします。
近いところでは原発再稼働なども当然ながら国民投票により決めるべきでした。さらにTPP交渉への参入と言うのもそうでしょう。
代議制の議員選挙というものがこのような政策選択にほとんど力を持てなくなっているための方策です。できれば議員選挙の制度改革で改善した方が良策なのでしょうが、国会議員の選挙制度を国会議員に決めさせるという愚策のために効力が無くなっています。
ぼーっと時を待っていてはどんどんと状況は悪くなります。ここで国民の声を活かせる場を取り戻せるかどうか、日本の将来に関わることかと思います。