爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「これ1冊で高校数学のホントの使い方がわかる本」蔵本貴文著

中高生くらいの生徒の、「学校で習う数学なんてなんの役に立つの」という疑問にはなかなか答えるのが難しいのですが、大学卒業後メーカーに就職してエンジニアをしているという正に好適な著者が解説をしています。
出てくる数学知識が高校生でなければ正確には分からないという点はありますが、それでも中学生から高校生、そしてそれをちょっと越えたくらいの若い人たちには非常に参考になる内容です。

取り上げられているのは数学全般、指数対数、関数、微積分、極限、三角関数、ベクトル行列複素数集合論理、確率統計となっており、それぞれについてその意味と社会での応用などがわかりやすく解説されています。
たとえば、対数を使うとどんな数でも指数として扱えるようになり、それは掛け算を足し算として扱えると言うこと、そして昔は対数表というものを使って数値計算をしていたということなど、本当は数学授業に入る前の基礎知識として知っていれば理解が早いと言うことも挙げられています。
微積分もことさら難しく見えるように教えられているものの、実際は面積計算と同様の意味であることや、CD(コンパクトディスク)の読み取りには微分が応用されているなど、面白い事例が詰まっています。
また極限と言う概念も微積分の本当の意味を理解するには必要なのでしょうが、そういったつながりを教えられてはいないのでしょう。

三角関数も本当の利用価値は三角形にあるのではなく、波の表現にあるということも覚えていれば有用です。

集合と論理ということは、数学としてはなかなか難しそうですがこれを用いて成り立っているのがコンピューターであり、誰もが知っていて良いところです。なお、細かいところではネット上でよく使われる暗号化技術というものは、現在はコンピューターが因数分解を扱うのが苦手なために成り立っているそうです。これは知らなかった。したがって、コンピューターの発展で因数分解の解法が劇的に進化すると現在の暗号化というものは簡単に破られてしまうようになる可能性があるということです。

非常に参考になり、面白い内容だったのですが、考えてみれば昔の高校の数学の先生にはこのようなことを授業中の雑談で話してくれた方もいらしたように思います。最近の数学教師にはそういった人は少なくなってしまったのでしょうか。