爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「街道をゆく19 中国・江南のみち」司馬遼太郎著

司馬遼太郎といえば「坂の上の雲」などで有名な国民作家とも言える人ですが、どうもその作風というものに違和感を感じてあまり読んだことはありませんでした。このように感じる人は他にも居るようで、佐高信さんの「司馬遼太郎藤沢周平」という本は読んでいますが、司馬の「英雄史観」とも言うべき歴史の見方は顕著かも知れません。

そんな中でこの「街道をゆく」というシリーズはそのような史観というものが直接出るものではないようにも思いますが、この本を買ったのはたまたま今から15年ほど前に中国に旅行する機会があったためで、ちょうど本書の扱っていた蘇州・寧波なども訪れたということが大きな要因でした。
その頃は上海でもおあちこちで高層ビルの建設中ではあったもののまだ昔風の町並みもかなり残っており、本書の司馬良太郎が訪れたおそらく1980年代の風景とはかなり変化はしてもまだ名残をとどめていた頃かと思います。
もちろん、蘇州や寧波、天童山などは上海と比べるとはるかに開発が遅れていましたので、さほど変わりはなかったかも知れません。

中国の歴史が好きだからといって現代中国の見方を調整するということはできませんが、どうしても歴史知識がある人(司馬やその同行者も相当な知識の人達だったようです)は80年代の中国を目の前にしながら、書物で覚えた古代中国の映像をあたかも見るような気がしたのではないでしょうか。
蘇州に行けばどうしても呉越の争いの頃(2000年以上前)の伍子胥を想わずにはいられないでしょう。寧波や天童山に行けばこれも道元や仏教修行のために訪れた人々に気をとられてしまう。
なかなか、あるがままの現代中国をそのまま楽しむということは難しそうです。