爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「老人漂流社会」NHKスペシャル取材班著

「終の棲家」などと言いますが、たとえ小さいながらも自分の家を持ったとしても、年老いてからその家で住み続けることができるかと言えば、難しくなっているようです。

身体の自由が利かなくなり、認知症になったり、世話をしていた家族が亡くなったり病気になったりすると、もはや自家であっても住み続けることはできません。

そこからどこに移るかといっても、極めて難しくなっています。

安心して住める有料老人ホームには多額の費用がかかり一部の富裕者以外には難しいものです。

費用が安く介護も十分な特別養護老人ホームには、入居希望者が押し寄せ、入るまでに数年待ちといった状況です。

身体を壊して病院に入院しても、今では退去期限があり長くは居られません。

 

こういった状況を取材し、2013年1月に「終の棲家はどこに 老人漂流社会」と題して放送されたNHKスペシャルの番組の取材内容をまとめたのが本書です。

 

序章の題は「歳をとることは罪なのか」

安心して住めるところを失い、病院や施設をたらい回しされている人たちが、そうつぶやきます。

現役時代には懸命に働き、家族を養い生活してきた人たちが高齢となった今、自分の家に住むこともできず、病院に入っても期限に退去を求められても行くところもなく、あちこちに漂流しているのが現実です。

 

高齢者が十分すぎるほどの年金を貰い、資産も多く現役世代より恵まれているといったイメージがあります。

しかし、2011年のデータで、単身世帯の年金受給額を見たものによると、年間200万円未満の受給者が全体の79.5%、さらに年間100万円未満が41.8%にのぼるそうです。

国民年金だけであれば満額でも月額65000円ですから、当然それしかない人が多数いるはずです。

つまり、ほとんどの老人は老人施設に入居するにしてもその金額を払うだけの収入は無いということになります。

そのため、貰っている年金の中で入れる施設を探すということになりますが、そういったところはほとんどありません。

さらに、病気になったりケガをしたりするともはや普通に暮らすこともできず、ますます入居可能な施設は少なくなってしまいます。

 

配偶者や子供がいない場合には本人だけの収入でどうにかしなければならないので、困難なのですが、子供が居たとしても現在ではそれほど生活に余裕のある人は少なく、さらに子供自身が病気などで働けなくなる例も多く、手の施しようがない場合が多数です。

もう生活保護を受けるしかないというところまで追い込まれる人が続出していきます。

 

さらに悲惨な状況なのが、認知症の悪化でホームレスとなった人たちです。

ホームレスであった人が徐々に認知症となるということも多いのですが、自宅があっても一人暮らしの人が認知症となり、そのまま家へも帰ることができず、路上で生活せざるを得ないという場合があるそうです。

認知症といっても記憶が保持できないだけで、会話を正常にできる人も多いので、周りからはその人が認知症であるということが分からず、対策もできません。

探す家族も居なければそのままです。

 

やはり社会福祉制度があまりにも不備ということなのでしょう。

老齢年金を貰ったら、その年金で暮らすことができる施設があり、死ぬまでそこで過ごす、そういった体制を作ることができなかったためにこうなったのでしょう。

今さら対策を取ることもできず、皆苦しんで死んでいくのでしょうか。

 

老人漂流社会

老人漂流社会