清水さんは小説家としてデビューされていますが、その後はエッセイや評論などの活躍が多いようで、実際に私が読んだ本も小説というのはありませんでした。
そのため、本書を手に取った時もてっきりエッセイで「ビールの選び方」について語っているものと思い込んで買ってしまいました。(図書館が休みなので珍しく)
開いてみてびっくり。
なんと短編小説集でした。
それほど厚くない文庫本に11編の短編が含まれており、特に統一したテーマがあるわけではないようです。
最初の数編は中高年男性の悲哀といった風情だったのでそれが共通しているのかと思ったら、そのうちに女子高生ややや年の行った女性、若いカップルまで出てきて、しかも時代も現代だけでなく少し遡った時代とあまり統一性はないようです。
強いて言えば平凡な日常の中の心の流れといったものかと思っていたら、急に別荘の裏山ががけ崩れしたらそこから死体が発見されたとか、その後の展開は無いようですが。
最後の著者あとがきでその謎が若干晴れました。
清水さんは平成7,8年の2年間、NHKのアナウンス室が作成した、ことばをテーマにした番組に出演しました。
予定通り番組作成が終了したあとの打ち上げで、親しくなったスタッフやアナウンサー、出演者などと「皆さんの”名前”を使った小説を書く」と宣言したそうです。
もちろん、個人のプロフィールや性格などはまったく関係なしに、単に名前だけを使って自由に話を書いていくということだったそうです。
それでもやはり、名前から感じるイメージでそのあらすじを組み立てていくということになり、面白い体験になったということです。
まあ、そういった話の作り方もあるんだなという感想です。
なお、表題の「ビール選び」、私が気を引かれて買った原因でもありますが、第1話がそれです。
主人公がずっと変わらず飲んできたビールの「味が変わった」
どうやらメーカーが少し手を入れたのですが、それが気に入らず他のビールを1本ずつ試していってもなかなか気に入ったものが無いという話です。
これは今でも同じような状況ですが、特に発泡酒や第3がないかつての時代にはもっとはなはだしい状態だったと思います。
日本のビールは地ビール以外の大手のものは多少の違いはあってもほとんど変わらないと言える状態でした。
その中で売るためには嫌と言うほどテレビCMを流すしかなかったわけで、それがあの業界のビジネススタイルとも言えるものでした。
どれかが好みと言うビール好きでも目隠しテストをやればどれがどれか分からないというものだったようです。
味と言う、個人の主体性が問われる問題ですが、あまり正確な判断がされているとは言えない状況であるということが分かる事例だったと思います。
こういった内容を語っている本かと思ったんだがな。