人類が進化し、かつて苦しんだ病とはまったく異なる病にかかりやすくなっているようです。
よく「文明病」などと言うことがありますが、どうやらそれとは違って意味で現代の病の特徴と我々の進化とは関係しているようです。
著者のジェレミー・テイラーさんはBBCテレビで科学番組などを作ってきた人ですが、この本を書くにあたっては多くの研究者の力を借りたと謝辞が書かれています。
本書執筆の2年後の2017年に死去されています。
いくつかの病気が扱われていますが、その「進化」との関わりは様々のようです。
「自己免疫疾患・アレルギー」「不妊症」「腰痛」「眼の病気」「癌」「心臓病」「アルツハイマー病」が扱われています。
いずれも現代において人々を苦しめ続けている疾病です。
しかし、医療関係者にとってはそれらが「進化」と関係があるかどうかはあまり意識されていないようです。
というより、意識的に進化と言うものを避けて考えているようにも見えます。
目の前の患者を治療しようとする医師にとって、「進化」などを考えてもほとんど益はありません。
しかし、最近になって多くの進化医学の研究者が進化と医学の関係について研究を進めるようになりました。
ランドルフ・M・ネシーという進化医学の父とも言える人の言葉には「進化のない医学は物理学のない工学だ」というものがあったそうです。
様々な疾病の奥底には進化が関係しているということは事実であり、それが治療にも必ず反映されるということでしょう。
免疫系の異常、自己免疫疾患やアレルギーの多発にはやはり共生微生物が関係するという、旧友仮説も説明されています。
一時は「衛生仮説」というものが提唱されていたのですが、それよりも共生微生物という「旧友」が失われたことが免疫異常につながってきたということです。
人間の多くがかかえる「腰痛」という問題は、人類が直立歩行をするようになったからだということが言われます。
腰の関節などはそれまで四足歩行をしていた時代とは90度違う方向への重力にさらされるようになりました。
それが各部への圧迫となり腰痛に悩まされるようになるのも必然だというものです。
しかし、直立歩行をするために進化してきたというのは少し違うのかもしれません。
実は「長距離走をするために進化した」というのが本当のようです。
走行速度は他の動物に比べて遅い人類ですが、持続して走り続ける能力は引けを取りません。
チーターも最高速度は速いとはいってもその速度で走れる距離は大したことはありません。
馬ですら、長距離になると人間に敗けるそうです。
これは、じわりじわりと獲物を追い続けて相手が疲れたらしとめたという、人類のかつての狩猟方法によるのだそうです。
ただし、人類の走行方法は今の走り方と少し違います。
当然ながら裸足で走らなければならないのですが、他にも通常の長距離ランナーのように「かかとから着地する」走り方では必ず足を痛めるという結果になるので、指の付け根から着地する方法が最良だということです。
動脈硬化などによる心臓病も人間の致命的な疾病として大きな位置を占めています。
これらが起きるのは喫煙や飲酒、飽和脂肪や食塩の多い食生活が原因であるというのが一般的な認識でしょう。
しかし、これにもどうやら免疫系の異常が関わっていそうです。
扁桃を除去する手術、虫垂を除去する手術は広く行われていますが、これらの器官が免疫に重要な働きをしているということは、最近になって分かってきました。
そして、小児期にこれらの手術を受けた人がその後どういった疾病にかかるかということを調査した結果によると、心臓発作を起こす確率が扁桃除去で44%、虫垂除去で33%も受けていない人に比べて上昇していたそうです。
さらに関節リウマチやクローン病といった明らかに自己免疫疾患と分かる疾病の罹患率も上昇していました。
どうやら、動脈壁への接着ということに免疫が関わっていそうです。
色々な病気と進化の関係、なかなか興味深いものでした。