著者の荒井さんは新聞社の特派員などを歴任、現在は主に中国関係の分析をされているようです。
本書は2014年の刊行、まだBRICSの上り調子が続いていたころの話で、それ以降の変化は計算に入っていないことは割り引いて考えなければいけないでしょう。
冒頭に書かれているように、30数年前に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われていたということが夢のようになり「チャイナ・アズ・ナンバーワン」と言うべき時代になってしまいました。
しかし、中国もすぐ近くに大きな変換点を迎えようとしており、その後はもしかしたら「インディア・アズ・ナンバーワン」になるかもしれないという観測です。
ただし、その論拠はあくまでも人口、それも生産年齢人口に重きを置き過ぎているように見えます。
中国はすでに人口が下降し始めており、しかも若年層が少なくなっているのは紛れもなく、今後は成長率も落ちていく。
しかし、インドはさらに人口増加の勢いがあり、それが成長率につながるという見方です。
確かに人口の動向や「成長率」という面で見れば大きな要素ですが、それは逆に社会の不安定要素でもあり、だから次の「ナンバーワン」になるといった観測はあまりにも簡略化しすぎではと思い、本書読み方にも少し熱が薄れかけました。
ところが、最終章の「私たちはいかなる道を選ぶのか」に至り、印象がまた変わりました。
2014年という、安倍内閣がまだ勢いがあるかのように見られていた時期に、さらに読売新聞出身という著者の経歴からも安倍びいきかと思いきや、この時点で安倍政権に対する的確な批判を次々と示しており、経済はともかく政治に対する見方はなかなかしっかりしたものと感じました。
首相はなぜ靖国神社を参拝すべきではないのか。
尖閣諸島問題をいかにして解決するか
安倍内閣の「新しい日本」は時代錯誤の古い日本
独りよがりの対中牽制外交
など、各段落ごとの表題を見ても極めてバランスの取れた政治的見方をされているというイメージでした。
最後は「米国の重荷となった安倍日本」と題された文章ですが、これはオバマ時代のアメリカであって、まさか現在のトランプ政権で「米国のスポンサーとなった安倍日本」になるとは、著者の荒井さんもこの時には想像できなかったでしょう。
しかし、本書刊行から5年間の世界の動きも予想外だったかもしれませんが、今のコロナウイルスに脅かされる世界はそれ以上に驚くべき変化をしそうです。