爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「PCR検査法の精度が悪い」なんて言わないでね。本当はものすごい分析方法です。

新型コロナウイルスの検出法として、これしか使えない状況なので「PCR検査法」と言う言葉が広く使われるようになっています。

しかし、どうも患者の検査で偽陰性や疑陽性が頻発しており、「PCR検査法の精度が悪い」などと言われることもあるようです。

 

かつて、会社の研究所などでDNAの分析もやっていた私ですので、PCR分析装置も使ったことは無いものの一応その原理を聞いており、装置を見たことはあります。

 

そんなわけで、PCRの濡れ衣を晴らしてみたいと思います。

 

PCRはPolymerase Chain Reaction の頭文字を取ったものです。

 

ポリメラーゼとはDNAを複製する酵素で、それを巧妙に使うことでDNAのある断片を高速で複製していくのがPCR法です。

 

この原理は、1987年にキャリー・マリスという科学者により発表され、シータス社で分析装置が開発されました。

マリスはこの功績で1993年にノーベル化学賞を受賞しています。

a.wikipedia.org

この原理は上記のウィキペディアに以下のように説明されています。

2本鎖DNAは、水溶液中で高温になると、変性し1本鎖DNAに分かれる。変性が起こる温度は、DNAの塩基構成および長さ(塩基数)によって異なり、長いDNAほど高い温度が必要になる。

このようにして1本鎖DNAとなった溶液を冷却していくと、相補的なDNAが互いに結合し再び2本鎖となる(アニーリング)。急速に冷却すると、長いDNA同士は2本鎖に再結合しにくいが、短いDNA断片(オリゴヌクレオチド)は結合できる。

PCR法では、増幅対象(テンプレート)のDNA、ポリメラーゼの一種であるDNA合成酵素(DNAポリメラーゼ)および大量のプライマーと呼ばれるオリゴヌクレオチドを予め混合し、前述の変性・アニーリングを行う。その結果、長い対象1本鎖DNAの一部にプライマーが結合した形ができる。プライマーがDNAよりも圧倒的に多い状況にしておくことで、DNA-プライマーの結合がDNA-DNAの結合より、さらに優先的になる。

この状態でDNAポリメラーゼが働くと、プライマーが結合した部分を起点として1本鎖部分と相補的なDNAが合成される。DNAが合成された後、再び高温にしてDNA変性から繰り返す。

以上述べてきたようにPCR法は、DNA鎖長の違いによる変性とアニーリングの違いを利用して、温度の上下を繰り返すだけでDNA合成を繰り返し、DNAを増幅する技術である。

PCR法開発当初はDNA変性の時にDNAポリメラーゼが失活するためサイクル毎に酵素を追加していたが、現在ではTaqポリメラーゼなど好熱菌の耐熱性DNAポリメラーゼを用いることで連続して反応を進めることができる。

マリスの最初の発案では大腸菌のポリメラーゼを使っていたため、なかなか反応が上手く続かなかったのですが、その後好熱菌のポリメラーゼを使うことで高熱で反応を進めることができるようになり、装置が格段に進歩しました。

 

現在では、医学分野だけでなく多くの遺伝子関連分野で使われており、これ無しでは分子生物学の急激な進歩はありませんでした。

 

実際の分析技法は以下のタカラバイオの説明が非常に分かりやすいと思います。

 

 

http://www.takara-bio.co.jp/kensa/pdfs/book_1.pdf

 

さて、それでは今回の新型コロナウイルスの検査でなぜ精度が悪いかということです。

 

これは、何回かここで触れていますが、「ウイルスの存在状態がインフルエンザなどと異なり、通常の検体採取操作で出てこないことがある」からでしょう。

 

鼻の奥や喉の中の粘液をぬぐい取り、そこに含まれているであろうウイルスを前処理をしてPCR装置にかけて遺伝子を増幅し、特有の配列が含まれていればCOVID19の存在が証明されるというものですが、もともとそこにウイルスが出てきていなければいくらPCR装置でも確認できません。

 

早く、より確実な検査方法が開発されることが待たれます。