爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「世界をまどわせた地図」エドワード・ブルック=ヒッチング著

昔の地図を見ると、結構細部までびっしりと書き込まれているようですが、その中には実際の地形とはまったく関係のない想像で書かれた部分がありました。

どうせそんなところまで行く人間はいないからいいやとでもいった風に描かれていたようです。

 

この本はそういった「実際にはなかった」地形だが地図に描かれていたために後世の人を惑わせたというものを集めています。

惑わされた人の中には実際にそこに赴いて遭難したという人も数多く、相当な実害が伴ったようです。

 

こういった「地図に実際にはなかったものを描く」というのは、どうして起きたのでしょうか。

中世以前の神話や伝説まで書き込まれた地図の場合は、各地の民族に残っている伝説をそのまま描いたということもありそうです。

また、航海時代以降では実際にそこに行った冒険者たちが見たと思ったものを書き込むことが増えてきます。

しかし、それは蜃気楼や極限状態での幻といったものもあり、探検者の証言を信じて書いて間違えたというものが多くあります。

さらに、「わざと嘘を言うペテン師」というのも相当数出現しており、その言い分を書き込んでしまったということも頻発しています。

 

なお、航海が通常業務となり世界各地に進出するようになって、こういった真実ではない地形というものは徐々に消されていきますが、それでも20世紀になってようやく「本当はなかった」ことが証明されたという例もあり、なかなか難しいものです。

 

メキシコ湾にあると言われた「ベルメハ島」は1539年にアロンソ・デ・サンタ・クルスによって刊行された「ユカタンと周辺の島」という地図に最初に書かれました。

メキシコ政府は20世紀になってもその島があることに期待をかけ続け、海軍を派遣して捜索しました。

その島が発見されればメキシコの領海が増え海底油田の領有権を宣言できるためです。

しかし、その地域にはまったく島の痕跡が発見できませんでした。

メキシコ国内では、アメリカのCIAが海底油田の権利を確保するために島を消し去ったという説まで流布しました。

しかし、ようやく2009年になってメキシコの大学の探索隊が、「この地域にかつて島があった痕跡は何もない」と確認したそうです。

 

ヨーロッパ人によるアメリカ大陸の征服時には、その大量の金に驚喜しました。

それ以前にヨーロッパ全体に保有されていた金はすべて合わせても「わずか6立方m」しかなかったのです。

それが、1503年から1560年までの間に新大陸から101トンもの金塊がスペインに運ばれました。

そしてさらに大量の金があるものと考えられたのが、有名な「エルドラド」でした。

現在のボリビア、ペルー、ブラジルの国境地帯のどこかに存在すると言われた黄金郷が地図にしっかりと記され、それを見た多くの人間がそれを探しに行って帰りませんでした。

 

ニューカレドニアにあると信じられていたサンディ島は、2012年にオーストラリアの海洋調査チームが行くまではあるものと信じられ、グーグルマップにも掲載されていました。

しかし、調査チームがその地点に行っても何もなく、そこの水深は1300mもありました。

この島を地図にのせた最初は1774年なのですが、ジェームズ・クックが計測した経度がずれていたためと考えられるそうです。

 

もはや地上には知られていない場所がまったくなくなってしまったような現代です。

どこかに幻の島があるかもしれないという時代とは大きく変わってしまいました。

そのような、かつての地図が数多くフルカラーで掲載されています。

それを見るだけでも楽しめる本です。