民族というものが世界情勢に大きな影響を与えています。
日本人は「日本民族」というものだというのがおおかたの認識でしょう。(実際はそれだけではありませんが)
しかし、世界の国では一つの国が一つの民族などというところの方が少なく、多くの民族が混ざり合い、摩擦を起こしながら暮らしています。
そのような世界について、「21世紀研究会」という匿名のグループですが、歴史学者や文化人類学者たちが集まって解説しています。
なかなか本格的な記述が多いようで、断片的なものですが深い内容も含まれています。
民族といっても、どういったアイデンティティで成立しているか、それも場合により様々のようです。
言語が違えば別の民族なのかどうか。
東南アジアでは一つの国の中に多数の言語を話す人々が分かれています。
彼らの血統が別なのかどうかも分かりませんが、本人たちには違う言葉を話すのは違う人だという認識はあるのでしょう。
スペインのバスク地方のバスク語、ハンガリー語などはその周辺地域の人々の話す言葉とはまったく違う系統の言葉だと言われています。
地続きで移動の激しかった大陸では、いろいろな経路でたどり着いた人々が混ざる場合もあり、独立を守った場合もあるのでしょう。
ハンガリー人は自らをマジャール人と称していますが、アジア系のアヴァール族と呼ばれる人々の子孫と言われています。
ただし、本当の系譜は良く分からないものです。
宗教の影響も強いもので、イスラム教徒はどこでも別の民族とされています。
中国では「回族」、フィリピンでは「モロ人」、旧ユーゴスラビアでは「モスレム」と呼ばれていますが、周囲の人々と人種的に異なっているとは言えません。
ただし、一旦イスラム教に改宗していますとその後は交流が細くなるので別集団となるのでしょう。
他にも、民族の移動、原住民族、少数民族といった問題についてもコンパクトに説明されています。
また、最後には世界各地の民族問題と言われるものを列記されています。
新書判の手頃な冊子ですが、なかなか中身は濃いもののようです。
ただし、20年ほど前の出版ですので最新情勢とはかなり違ってしまったかもしれません。