「ご当地グルメ」というと最近では全国あちこちで取り組まれている「まちおこし」で考え出されるもので、それほどその土地の特産品や特徴と関係の無いものも多く、よく目にするのは「焼きそば」などのようです。
しかし、この本ではそのようなものではなく、各地の地理的状況と密接に結びついたものを紹介し、その背景を説明しようとしています。
著者は出版当時はお茶の水女子大地理学専攻の学生さんの尾形さんと、指導教官と思われる長谷川さんです。
内容は、各都道府県別に一つの特産品を選び、それがなぜその地域の名物となったかなどをさっと解説しています。
多くは伝統的な食品ですが、中には新しいものもありその選択は自由に行われたようです。
滋賀県の「ふなずし」は文句なしに長い伝統を持つ食品ですが、埼玉県の「カエデ糖菓子」、愛媛県の「霧の森大福」はごく最近できあがったお菓子のようです。
察するところ、著者の尾形さんの趣味と好みで選ばれたのでしょう。
神奈川県では崎陽軒のシウマイが選ばれて説明されていますが、なんと横浜の中華街の地理的な成立要件から説き明かされており、明治初期になぜここに中国人が集まってきたかも分かるようになっています。
伝統的な本格焼酎を選ぶのでしたらやはり鹿児島の芋焼酎の方が本家かと思いますが、鹿児島では福山の黒酢を選んでいるので熊本で割り込ませたのでしょうか。
なお、熊本県の「その他の産物」として、馬刺し、からし蓮根、高菜めし、コノシロの姿寿司が挙げられていますので、まあ妥当な選択かと感じます。
地理的な説明として面白かったのは、山梨県の欄で取り上げられていた「魚尻線」という言葉です。
これはいつの頃の話か明記はされていませんが、かつて生魚を腐らせないで運べる限界であった土地のことであり、山梨県は静岡からの輸送でぎりぎり甲府まで可能だったそうです。
しかし、長野県ではかなり厳しく、新潟からは長野市、松本市、伊勢湾からは馬籠峠、豊橋からは長野県まで到達できずに愛知県内新城が限界だったとか。
道理で、私の両親の故郷の長野県南部では昔は魚がほとんど食べられなかったわけです。
そのため、その地方の隠れた名物に「塩いか」というイカの塩蔵品がありました。
それでも中央高速の開通で一気に生魚の流通が可能となりました。
本の題名ではもうちょっとチャラチャラしたものかと思いましたが、中身はかなり真面目な内容でした。