爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「健康になれない健康商品 なぜニセ情報はなくならないのか」佐藤健太郎著

著者の佐藤さんは医薬品メーカーで研究員を勤めた後、サイエンスライターとして活動しているそうです。

 

現代は「健康商品」というものが溢れています。

医療の水準は上がり、多くの人が長寿を全うすることができるようになりましたが、その反面特に高齢者の健康に対する期待値は上がり続けています。

その結果、医薬品を使用するほどではないが、少し健康に不安があるという人が増え、その人々が健康商品を購入することになるのでしょう。

 

しかし、その中にはまったく健康に寄与しないものもあり、またほんの僅かな効能があるだけですがそれを万能のように飾り立てて販売するものもあります。

 

医師や薬剤師、さらに著者のような化学系の研究者など、多くの人がそのような現状のおかしさには気がついているのでしょうが、彼らがそれを専門的に解説し「効かない」ということを言うことは少ないようです。

それはほとんど得にもならない行為であり、場合によってはそれを商売にしている連中から攻撃されたり、ひどい時には脅迫まがいの行為をされることもあります。

逆に、そのような専門家が加担して作り出しているものも多数あります。

 

そんな中、この本はまあ直接名指しをしての告発はしていませんが、一般的に見ておかしいという事例を多数説明しています。

その内容は非常に正確なものであり、真実はここにあると言えるものですが、おそらく健康商品に引っかかっているカモの皆さんにはこの本は届かないんでしょうね。

 

本書構成は、第1章「リスクとはなにか」、第2章「ナチュラルの誤解」、第3章「それでもお金を払いますか」、第4章「健康情報といかにつきあうか」というものです。

 

「リスクとはなにか」という問題は、健康商品というものには直接は関係がないかもしれませんが、それが売れている状況を作り出している要因になっているかもしれません。

これに対しての誤解が多く、それを煽るようなマスコミの報道もあり、健康不安を高めるということにはなるのでしょう。

そのような煽りで、新興感染症のようなまだ実際のリスクではないものや、ほとんどありもしない有害物などの危険性にばかり目が行き、本当に有害で多くの被害者を出しているようなリスクに中々目が向かないという状況が生まれているようです。

 

ナチュラル」もおそらく健康商品の多くが関わっているものでしょう。

人間に実際に害を与えている毒物の多くが天然物であるという事実があるにも関わらず、自然・天然は絶対善とばかりに装っている健康商品の多いこと。

 

さらに、完全に「ニセ科学」であるものに多くの費用をかけてしまう人が多く、さらにそれを信じすぎたがために、適正な医療を受けられずに身体を悪くしてしまう人も跡を絶ちません。

EM菌と言われる有用微生物群は、最初こそ農地の土壌改良など効果の考えられる場面での使用が進められましたが、徐々に何にでも効く「万能」物とされてしまいました。

コラーゲン、プラセンタ、ゲルマニウムバナジウムなど、ほとんど効能もないか、あってもごく僅かにしか過ぎないものが、万能薬のように宣伝され高価で販売されています。

 

酵素」というものへの信仰も、科学者の目から見たものと一般人が思うものとは大差があります。

酵素は生命反応を司るといっても良いものですが、反応一つ一つに別の酵素が関わっており、何にでも効く万能薬のような酵素など存在しません。

1946年にエドワード・ハウエル博士が提唱した「酵素栄養学」がその発端と考えられますが、タンパク質の構造や生命反応などほとんど分かっていなかった時代の理論であり、すでにまったく相手にされることはないのですが、それがいまだに信奉者を獲得しているようです。

日本では、2005年に新谷弘実氏により酵素健康法が提唱されたのですが、新谷氏は大腸内視鏡手術の世界的な権威だということです。

これなど、ある分野の専門家が他の分野にも精通しているとは言えない好例だということです。

 

本書は2016年の出版であり、「機能性表示食品」の制度が動き始める直前のもので、その現状までは触れられていませんが、トクホ(特定保健用食品)が厳しい審査を経ているにも関わらず、過剰広告が指摘されているという問題点は紹介されています。

機能性表示食品の行く末についても、「注意して見守る必要がある」とされていますが、著者の危惧の通りにひどいことになってしまいました。

 

 

健康情報というものは、医学界などでの研究によってどんどん変わっていくものですが、それを捉えて自分の業績や商売に使おうという人々も常に多数存在します。

活性酸素の除去にコエンザイムQ10が効くからそれを飲めば老化防止になる、といった専門知識を使って宣伝しようとする例は多いようです。

しかし、活性酸素が老化のもとといった考えも、徐々に研究結果が出て変わりつつあります。

活性酸素はどうやら絶対悪ということではなく、別の面では生命活動に重要なものであり、そのバランスが必要ということで、どんどん減らしてしまうと逆に健康に悪いということもあるのかもしれません。

 

最後に「健康情報の見分け方」ということが伝授されています。

ただし、これは専門家でも非常に難しいものであり、科学的知識の少ない一般人が間違いなく判断するということはできません。

しかし、現状ではこの言葉が出てきたらほぼ怪しいというものはあり、それは「デトックス」「体内除染」「好転反応」「水素」「万能性」「波動」だそうです。

まあ、そのとおりでしょう。

 

また、正確な判断の助けになりそうな本として、NATROMさん、中川基さん、左巻健男さんの本が挙げられています。これも正当なところでしょう。

 

一方で、SNS情報というものには警鐘を鳴らしています。

科学的な裏付けなしに間違った情報を発散と称して広げてしまうことが多いようです。

ただし、科学者の正しい情報というのはどうしても強い口調では言えない(正確に知れば知るほど断言はできない)ということがあり、慣れないと判断が難しそうです。

 

健康になれない健康商品: なぜニセ情報はなくならないのか

健康になれない健康商品: なぜニセ情報はなくならないのか

  • 作者:佐藤 健太郎
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2016/02/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 最初にも書きましたが、ほぼ正確な内容であり、健康情報を取り巻く現状なども間違いないところですが、でもおそらく健康商品などを喜んで買うような人にはこの本は届かないだろうなと思います。

残念だけれど、それが今の社会でしょう。