爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「鉄学 137億年の宇宙誌」宮本英昭、橘省吾、横山広美著

鉄というものは現代社会にとって非常に重要であることは誰でも知っています。

少々古い言葉ですが「鉄は国家なり」などということも言われました。

 

しかし、そればかりではなく鉄は生物の体のためにも必須であり、欠乏すると貧血などの症状が出ることもあります。

また、これはあまり知られていないかもしれませんが、地球に磁場というものがあるのも地中深くに鉄が溶融しているためですし、それが有害な宇宙線が地上に降り注ぐことを防いでいるために、地上に生物が住むことができる理由にもなっています。

 

このような、「鉄」の重要性について、宇宙の始まりから現代まで、宇宙で鉄が生まれた過程から、生物の必須元素となるに至った経緯まで、詳しく説明がされています。

そのためか、宇宙科学地球科学だけでなく生物学まで必要ということで3人の方の共著となっています。

 

鉄は現代文明を支えるものであり、建物の多くは鉄骨を芯として建てられていますが、そればかりでなく、鉄がなければ磁場を使うわけにも行かず、ということは電気を自由に操るためには鉄が必須でした。

磁性を持つ金属は鉄のほかにはニッケルとコバルトしかありません。

その中でも鉄はもっとも強く磁化されるという性質を持っています。

 

人類の歴史上、はじめて鉄を使い始めたのは紀元前2000年ころの西アジアヒッタイト人が初めと言われています。

武器や戦車の車軸など兵器として重要であり、さらに農機具として使われるようになり、文明を開くためには最重要の物質となりました。

初期のころの鉄は、隕石から得て製鉄したようです。

そのためか、隕石は地上に万遍なく降り注いでいるはずなのに、古代文明が栄えた場所ではほとんど隕石が残っていないそうです。

 

地球が大きな磁石であるということは自明のようになっていますが、惑星の中でも磁石となっているのは地球だけです。

これは、地球の核が鉄であるということの他に、高温で溶融していて緩やかに対流し動いていることから磁力を発生するという理由によります。

火星は鉄が多いにも関わらず、中心まで冷え切っているので鉄も固化しており動かないので磁場を発生しません。

この、磁場があるかどうかということが宇宙線が地上に届くことを防いでおり、生物が害を受けることを防止しています。

 

地球の磁石としての極が、一定期間ごとに逆転するということも新たに得られた知見です。

磁場を記録しているような地層があり、それを詳細に調べていくと時期によって違いはあるものの多い時は20万年に一度のペースで磁極が逆転していたそうです。

この逆転時には一気に変わってしまうのではなく、徐々に弱まりながらいったん何もなくなり、また強まるという経過をたどるのですが、その無くなる時期には有害な宇宙線が地上まで届くために生物にとっては害があるとか。

 

動物の赤血球に含まれるヘモグロビンは鉄を分子の中心にして構成されていることが知られています。

そのために鉄欠乏すると貧血になることになります。

しかし、生物にはそれ以外にも鉄を必要とする部分があり、多くの生物にとって鉄が必須元素となっています。

これは、鉄の分子としての構造がちょうど最適なようにできていたためです。

 

太陽系全体で見ても、元素の存在量で水素ヘリウムは別格ですが炭素、酸素に次ぐ程度の存在量で、非常に多いものとなっています。

宇宙の最初に様々な元素ができてきたのですが、その時にも鉄が通常の反応の最後の工程になり、鉄が溜まりやすかったということがあったようです。

それが、地球や火星などの岩石惑星に多く集中して、重量の多くを鉄が占めるようになりました。

地球などは一見したところ「水の惑星」と言えるようですが、本当は「鉄の惑星」であるようです。

 

鉄の未来も、いろいろな技術の発展が考えられているようで、鉄を使った超電導や、レアメタルを使わない鉄の新触媒など、今後も画期的な技術開発があるかもしれません。

地球にとって、そして生物にとって、鉄というものはなくてはならぬものだったということです。

 

鉄学 137億年の宇宙誌 (岩波科学ライブラリー)

鉄学 137億年の宇宙誌 (岩波科学ライブラリー)