爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「岡田英弘著作集Ⅱ 世界史とは何か」岡田英弘著

岡田英弘著作集全8巻の中から、すでに何冊も読みましたが、今回は岡田さんの歴史学の中でも中心となるモンゴル史に関連した分野の著作を集めたものです。

 

それに「世界史とは何か」という題名を付けたというところが、岡田さんの歴史観というものをよく表しているところです。

 

これまでも何度か引用しているように、「歴史」というものを持っていた文明は地中海文明とシナ文明のみでした。

日本などはシナの影響を受けた歴史成立を見ましたが、インド文明、イスラム文明、アメリカ文明などは「歴史」そのものが存在しないという見方をしています。

 

そして、さらに「世界史」というものは実は13世紀のモンゴル帝国に始まるものだというのも岡田さんの歴史観から出てきています。

それまではシナにしてもギリシア・ローマにしても地域内とせいぜいその周辺のみを扱う歴史でしたが、モンゴルが世界帝国を築いたところから初めて「世界」というものが成立したということです。

 

モンゴルが世界制覇をした、その伏線は遥か以前から中央ユーラシアで育まれてきました。

「中央ユーラシア」というのも岡田さん独特の用語ですが、普通に言われる「中央アジア」などという言葉より広い範囲を指します。

そして、その草原を自由に遊牧して回っていた遊牧民族は非常に古い時代から東はシナから西はヨーロッパ、中東の文明までを時には襲い、時には交易をしてきたそうです。

さらに、モンゴルはその伝統的な遺産の分割相続の伝統で、チンギス・ハーンの世界帝国も各地に分割してしまいますが、その統治の遺産は普通に考えられているよりは遥かに遅い時代まで残っており、近代に至るまで影響を持っています。

シナやロシア、インドなど、それぞれ知らぬ顔をして独自の国家であるようなフリをしていますが、実際はモンゴル人の国家観がそのまま継承されているということです。

 

シナ史においても、その枠組に囚われすぎているため、元の国がシナを失った1368年にモンゴル帝国も終わったと考えがちですが、実はその継承国家は今でも続いているというのが実態です。

モンゴル帝国の一部としての元朝は、あくまでもモンゴルから見れば地方国家でした。

それが単にシナを失っただけであり、モンゴルのハーン国は続いていたと考えられます。

シナ中心の観点から、元朝チンギス・ハーンの正当な後継者であり、それが滅びた時がモンゴル帝国も滅びた時であるというのは、間違った見方です。

 

ロシアでも、多くのハーン国がありました。

それをツァーリと呼んだのは単なるロシア語訛りであり、実質はモンゴルの伝統でした。

モスクワ大公国も、その中でキプチャクハーン国の継承国家であった、クリミアハーン国のハーンから最も信頼を受けていた現地国家であったようです。

彼らはモスクワ大公国が東ローマの伝統を受け継いだと称していますが、内実はモンゴルの伝統の中で周囲を制したというのが本当です。

 

シナの伝統と言われるものが、実際はいかにモンゴルのものに影響を受けていたか、中華料理についても説明されています。

 

中華料理というものは、はるか昔は分かりませんが、六朝時代、唐、宋の時代にはほとんど油も使わず味付けも薄い、「清淡」と表現できるものであったようです。

しかし、その後の元の時代にモンゴルの伝統が深く入り込み、明、清の時代には濃厚な味付けをするように変わりました。

現代の中華料理では、炒め料理がもっとも中心になりますが、宋の時代には炒め料理というものは数少ないものでした。

それも、肉料理に用いるのではなく、南方の魚介類を使う料理にわずかに使われる程度でした。

それが、宋が金に敗れて南方に逃れた辺りから肉の炒め料理が増えだし、元の時代にはそちらのほうが主流となります。

 

このように、シナ文明というものは元の時代にモンゴルの伝統を加えることで大きく変質したと言えるのでしょう。

 

他にもモンゴルの歴史についての文章も含まれていますが、このように大きな存在であったモンゴルも近代になり大国となった中国、日本、ロシアなどの周辺国家の影響を受けて厳しい状況に追い込まれます。

中でも、日本では戦前は蒙古というところに親近感を覚える人が多かったのですが、相手方からは日本の進出に相当な警戒感を持っていたということがあったようです。

その後、日本の援助もあって対日感情はかなり好転したようです。

この地域の歴史というものも、知っておかなければならないことが多いのでしょう。