爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「地球の歴史(上) 水惑星の誕生」鎌田浩毅著

火山学者として有名な鎌田さんですが、この本ではそれにとどまらず広く地球科学という観点から地球の歴史というものを説明しています。

最新の研究成果も取り入れていますので、私などまったく知らなかった最新知識も仕入れることができました。

 

上中下の3巻セットですが、これはその上巻で宇宙の始まりから太陽系の誕生、そしてマグマオーシャンの冷却からプレートテクトニクスの開始、大気と海の誕生までを扱っています。

ちなみに、中巻は生命の誕生と進化、古生代の大量絶滅まで、下巻では中生代から人類の誕生までということです。

 

宇宙の始まりから非常に詳しく説明されていますが、それを全部書くわけにもいかないので印象的な部分、これまで知らなかったことなどを書き留めておきます。

 

太陽系が始まった時は、太陽に近い固体微粒子はぶつかりながら吸着と付着を繰り返しました。

そして直径1~10kmほどのおびただしい数の「微惑星」を生みました。

それらがさらに衝突と合体を繰り返し、水星から火星までの4つの「岩石惑星」を生みました。

木星より外側の「ガス惑星」は太陽の熱が少なく水蒸気が吹き飛ばされなかったために氷の惑星となりました。

これらの惑星は、さらに自分の重力で周囲の細かい物質を吸い付けて成長していきました。

地球は非常に大きな微惑星と10回衝突しました。

これを巨大衝突(ジャイアンインパクト)と呼ぶのですが、その最後の巨大衝突のときに衛星となる月が弾き飛ばされたのです。

この時の巨大衝突では、地球の中心部ではなくちょっと外にずれたところに火星と同程度の大きさの惑星が衝突しました。

それで宇宙に飛び散った破片が徐々に固まって月になったそうです。

他の惑星の衛星を見ても、月ほど大きな衛星はありません。

月が分離したジャイアント・インパクトで、地軸の傾きもできたため、それ以後は地球に四季ができました。

また、この衝突のときに地上の多くの二酸化炭素が吹き飛ばされたそうです。

そのため、その後の生命の誕生にも好都合となったようです。

 

多くの微惑星などの衝突は、そのたびに大きな圧力上昇と気温の上昇をもたらしました。

その結果、地表全体を1000kmもの厚さで溶解した岩石が覆う、マグマオーシャンという状態になりました。

しかし、それは徐々に冷え始めます。

また、地中深くではより重い物質は地球内部に沈んでいき、軽いものが浮上するという分離が起こり、核(コア)とマントルの分離が起きました。

さらに水蒸気は液化して海が形成されます。

 

その上部マントルの最上部と、地殻が合わさってプレートというものが作られました。

その下のマントルの中心部はより柔らかい構造なので熱による対流で移動しています。

それにともない、その上に乗っている硬いプレートが徐々に移動するというのがプレートテクトニクスです。

この理論は1960年代から広まってきましたが、これにより地表で起きている地殻変動や火山活動、地震などの現象の解釈が可能となりました。

太陽系の惑星の中で、プレートテクトニクスが働いているのは地球だけです。

それがなぜなのか、地球科学はさらに研究を進め、地球惑星科学と発展し、その答えを出していきました。

水星や火星には表面に固くて厚いリソスフェアが存在しますが、その下の層はすでに冷え切っていて対流が起きません。

そのためにプレート移動も起きないということです。

 

このように、地球内部の運動を解釈するのに非常に優れた理論であったプレートテクトニクスですが、大陸の移動と成長というものは、実は数億年の周期で激しくなりその間の時期にはほとんど動かない静穏期となっています。

これはプレートテクトニクスの理論では説明のできないものでした。

これを説明するために考えられたのが「プルーム・テクトニクス」という理論でした。

プレートとプレートのぶつかる境界では、一方のプレートが沈み込みます。

この沈んだプレートがどこへ行ってどうなるかということは、プレートテクトニクスでは説明できない範囲のものでした。

それをプルームテクトニクスが解釈しました。

沈み込んだ海洋プレートはマントルの中をどんどんと沈んでいきます。

しかし、上部マントルと下部マントルの境界の深さ670kmの辺りで沈み込みが止まり、そこで溜まっていきます。

これが大量になってくると、下部マントルの中にさらに沈んでいきます。

これは比較的冷たい塊で「コールドプルーム」と呼ばれます。

そして、コールドプルームの沈降の反作用として、核の表面から巨大なプルームが上昇を始めます。

これは非常に熱いのでホットプルームと呼ばれます。

このような、マントル内での対流が、振り返ればプレートテクトニクスの動きを引き起こす基にもなっていたのですが、このホットプルームはさらに大きな影響をもたらします。

 

インドのデカン高原や、北アメリカのコロンビア川溶岩台地というところには、日本の面積よりはるかに広い地域を溶岩が埋め尽くしているところがあります。

これらを形成したのが「超巨大噴火」と呼ばれるもので、ホットプルームの影響で大量のマグマが噴出したときにできたものです。

阿蘇カルデラを作り出した噴火は「巨大噴火」と呼ばれましたが、その後の研究の進展でそれを遥かに上回る規模の噴火であったことが証明されたため、「超巨大噴火」と名付けられたそうです。

 

さらに、このホットプルームの上昇は、このような超巨大噴火だけでなく、大陸の分裂も引き起こすような大きな地表の変化を起こします。

現在のような大きな大陸が形成されたのは25億年前のことですが、それはすべての大陸が一つの塊である超大陸「ヌーナ」でした。

そして、それが分裂していくつかの大陸となるのですが、それがまた別の場所に集まって二番目の超大陸ロディニア」が形成されたのが11億年前です。

これが分裂を始めたのが6億年前、さらに5億5000万年まえにはまた超大陸ゴンドワナ」が誕生、そしてまた分裂しまた合体して超大陸パンゲア」が3億年前に誕生しました。

パンゲアが分裂して現在のような5大陸となっているわけです。

当然ながら、これらの大陸はまた集合して超大陸となることになります。

しかし、それは今から2億年以上後の話だそうです。

 

上巻の最後は炭素循環の説明で終えられています。

二酸化炭素の人為的な上昇ということが言われていますが、火山活動で噴出する二酸化炭素量は非常に大きいものであり、それはまたフィードバック作用で固定されているものです。

地球の長い時間軸で見ると、冷却化されまた氷河時代に向かっているのは間違いないことであり、一時的な温暖化というべきだろうというのは地球科学者としての感覚でしょう。

 

なお、プルームテクトニクス理論を進めてきたのは、日本人科学者の丸山茂徳氏と深尾良夫氏らの寄与が大きいそうです。

丸山さんは他の著書を通じて以前からお名前は存じ上げていましたが、そんなに偉い方だったんですね。

 

この後の中巻、下巻も読みたいのですが、図書館にあるかどうか。

 

地球の歴史 上 - 水惑星の誕生 (中公新書)

地球の歴史 上 - 水惑星の誕生 (中公新書)