爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「誰も答えない! 太陽光発電の大疑問」近藤邦明著

ネット上で「環境問題を考える」というサイトを運営し、自然エネルギー二酸化炭素温暖化といったものについて、科学的な考証をしている近藤さんの書かれた著書です。

 

この本では、特に「太陽光発電」を中心にその欺瞞性を取り上げています。

 

太陽光自体は無料で?降り注いでいますが、それを発電に利用した場合はその電力は非常に価格が高くなってしまいます。

それを無理やり普及させようと、高値で電力会社に買い取らせるという施策が実施されていますが、電気料金への上乗せは増える一方のようです。

それがなぜなのか、そこを簡潔にまとめ、説明してくれますが、やはりかなり数式が出てきますので少し努力をしないと理解が難しいかもしれません。

 

エネルギーを利用するための技術というものが本書の主題となるところで、基本的な解説が第2章の「エネルギー利用技術の評価のポイント」です。

「エネルギー産出比」というものがエネルギー資源を見ていくためのポイントです。

 

(利用可能エネルギー量)/(投入エネルギー量)=(エネルギー産出比)

という数式でそのエネルギーの評価ができます。

この(エネルギー産出比)が大きいほどそのエネルギー資源が優れているということになります。

少なくとも(エネルギー産出比)>1 でなければエネルギー資源としては意味がありません。

 

この値は状況によって変動しますが、室田武氏が燃料石油について計算した例があります。

採掘、輸送用タンカー燃料、原油精製損失、石油精製燃料などを含めての投入エネルギーは約15単位、これで100単位の燃料石油が製造できます。

エネルギー産出比としては、100/15=6.6 となります。

石炭の場合は精製がないためにより高く、この値は10~40と高い値を示します。

 

主題の「太陽光発電」を説明するまえに、そもそも「電力」というエネルギーについて考えなければいけません。

実は、「電気エネルギー」というものは、それを発電し送電し使用するまでに相当な損失が生まれるものなのです。

石油や石炭を燃やして発電するにしても、太陽光エネルギーや風力エネルギーを変換するにしても、いずれも多くの損失を出します。

これは、最初のエネルギー資源から電力に変えるために「迂回」するからです。

発電するというだけで、火力発電では60%以上が失われます。

温水器などを考えても、石油ボイラーを考えるとその効率は0.9程度(90%ということ)ですが、電気給湯器はすでに発電段階で効率が0.4程度ですので、それにさらに給湯器段階での効率が低下するという宿命があります。

電力会社はこのような「オール電化」をエコなどといって勧めていますが、実際はエネルギー利用効率を大きく落とすだけのものです。

 

さらに、電力エネルギーというものはその発生と消費がほぼ同時に行われます。

そのため、需要の変動があると供給の能力が届かない場合には電力の質の低下(周波数や電圧の変動)を招き最悪の場合は停電します。

そこで、風力や太陽光などの不安定電力が増えるとそれをカバーするために火力や原子力発電量を増やさなければならないという状況になります。

大容量蓄電池を備えるということも行われますが、そうなると蓄電池の製造などにより多くのエネルギーや資源を費やしますので、さらにエネルギー産出比は低下します。

 

この点を軽視し、さらにその解決は既存の電力会社がすべきだと主張するのが「自然エネルギー主義者」の人々です。

実は自然エネルギーというものは「小規模・分散型で消費地で生産できる」という特性があるのですが、それを捨てて「既存の大規模電力供給ネットワーク」に接続しなければ使えないという矛盾に陥っているということも理解できないのでしょう。

 

太陽光発電の能力というものを、技術的に正確に検討するということが、意外になされていません。

発電機の出力を示すのに「定格出力」というものが使われます。

石油などを使う発電機の場合は、定格出力通りの運転を行うのはそれほど難しくありませんが、太陽光発電では天候次第で大きく変動しますので、「定格出力」がどういう値なのかあやふやです。

最大出力がそれであっても、天気次第ではその値はほとんど出すこともできないでしょうし、快晴であっても太陽高度の関係でその出力を出すことのできる時間はごく短時間になるでしょう。

 

このような不安定なシステムを相対的に比較する尺度として、ワットピークというものが利用されているそうです。

Wpと書き表しますが、太陽光発電の標準条件は、

放射強度 1000W/平方m、発電パネル温度25度、エアマス1.5

(エアマスとは大気厚の尺度で、赤道上、海抜0mの南中時の値を1.0とする)

この条件で変換効率20%とすると、Wp=200W/平方m程度です。

 

日本における太陽光発電の最大発電効率を調べてみました。

夏場の快晴日の正午前後という、一番太陽光の強いときで、

戸建用3kw発電パネル、面積30平方mのもので、100W/平方m,

これは、地表面の全天日射強度の1000W/平方mの10%程度に当たります。

ただし、これは一年の中でももっとも太陽光の強い時点での値です。

年間を通した太陽光の平均、気象条件などを考えていくと、実際にはそれをはるか下回る値しか得る事はできません。

 

太陽光発電が今は非効率だとしても、技術開発でどんどん性能が上がるから大丈夫という話がされます。

しかし、現在でもどうも発電効率は16%程度まで達しているようです。

気象条件などを考えた最大の効率は20%程度ということですので、実はもうすでにかなり最大に近づいているようで、今後の劇的な数値の上昇というものはありえません。

今でも、太陽光発電システムの原価構成を見ると発電パネル等の設備製造に大きなコストがかかっています。

コストが高いということは、使用するエネルギーも多いということで、しかも現在では製造に使用するエネルギーはほとんど石油や天然ガス由来ですので、自然エネルギー製造装置と言いながら、石油を大規模に投入しているだけのものであることが分かります。

 

このような非効率なシステム構築であっても、消費を必要とするから経済は回って契機が良くなるということも言われます。

しかし、無駄な公共事業を垂れ流して景気を刺激するということが言われて実施されてきましたが、そのような不自然なことは長続きはせず、国全体の経済は低迷するというのが実際です。

太陽光発電のような非効率な産業に資金を集中するほど、何も生み出さないために経済全体が疲弊するということになるのでしょう。

 

このような施策を、近藤さんは「エコエコ詐欺」と表しています。

このような環境・経済政策を続けていけば、亡国に至るのでしょう。

 

誰も答えない!太陽光発電の大疑問―エネルギー供給技術を評価する視点 (シリーズ環境問題を考える 2)

誰も答えない!太陽光発電の大疑問―エネルギー供給技術を評価する視点 (シリーズ環境問題を考える 2)