著者は書籍制作に関わるかたわら、日本語や日本人についての研究をされているという方で、ネット上でも「笑える国語辞典」というものを発表しています。
本書はその中から厳選したものを掲載したということです。
それ以上のことはわかりませんが、書かれている内容は正確である上にユーモアや風刺の調味料を利かせており、かなりの筆力と知識があると感じられます。
一つの項目について読んでいくと、一箇所はクスリと笑える部分があるようです。
それでは、どの程度その雰囲気を伝えられるかは分かりませんが、いくつかを紹介してみましょう。
「すする」
音を立てて汁や麺を口の中に吸い入れるという意味。
これについて、その成立した理由を考察しています。
1.日本では食器を手に持って食べる習慣があり、汁物は食器に口をつけて吸引していた。
2.禅寺ではたくあんと麺類は音を立てて食べることが許容されていた。
3.江戸時代に気の短い江戸っ子が蕎麦を急いで食べた。
ただし、すするのは蕎麦だけにしておくべきで、「カレーうどん」などは辞めたほうが良い。と書いてあるところでニヤリとします。
また、「すする」という音は実際の口に入れる時の音を模したのだが、「そうであるなら『ずずる』の方が本来の響きにより近いはず」という指摘も面白い。
「後塵を拝する」
権力者などが馬車で通ったあとのチリ(後塵)を「ありがたく頂戴する」ということで、出典の「晋書」では権力者にへつらう取り巻き連中のことを指していました。
しかし、現在の日本ではこの言葉は「後から来るものに追い抜かれる」という意味で使われているようです。
「何気ない」
意図的でない、自然な、という意味。
「何気なさ」が相手に対して示されるときは本当に「何気ない」のかどうか疑わしい。
実際は気づいていて気づかないふりをしているわけだから「何気ない」というのはそれ自体が「何気ある」行為となる。
という分析も面白いのですが、さらに、
「したがって、現代では正確に『なにげに』と言われることも多い」
と現代風の崩れた言い回しも取り上げてしまいました。
「キーマン」
取り上げている言葉は日本語だけでなくカタカナ英語もいくつもあります。
「キーマン」はキーパーソンともいい、組織などの重要人物、中心人物のことで、特に商談や交渉の時にはその人物の動向さえ抑えておけばほかの有象無象は無視しても良い。
という言葉の意味の解説は極めてまともで正確です。
それに続くのが
「例えば日本と政治的な交渉をする場合におさえておかなければならないキーマンは、アメリカの大統領である」とい文章で風刺をきかせます。
軽い感じの装丁の本でしたが、中身は濃いものでした。