爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「内田樹の研究室」より、「合従論再考」

内田樹さんの「研究室」、中国古典が好きなものにとっては非常にわかりやすい「合従論」です。

AERAに書いたそうですが、字数が少なかったので補足してここに載せました。

blog.tatsuru.com東アジアの国際協調体制として、「東アジア共同体」が必要だということです。

それは、「日本、韓国、台湾、香港」の4カ国を結んで、米中の二大国に対抗するというものです。

 

これが、中国の戦国時代に諸国が争う中で思想家蘇秦が提唱した「合従策」と同様の性格を持つものであり、しかも日韓・台湾・香港のどの国も「合従」と言っただけで大方の人は詳しく説明する必要もないほど広く知られた概念となっています。

 

そして、実際の戦国時代では、やはり思想家の張儀が唱えた「連衡策」を取る国が次々と秦に滅ぼされていったという、その詳しい顛末も皆周知の事実であり、この国々の人に説くには「合従策がよい」と言うだけで理解できます。

 

ついでながら、歴史に詳しくない人のために内田さんも少々説明をしています。

戦国時代に燕・趙・韓・魏・斉・楚の六国同盟によって大国秦に対抗することを説いた蘇秦の説が「合従」。六国を分断して、個別に秦との軍事同盟を結ばせようとしたのが張儀の説いた「連衡」である。
歴史が教えてくれる結末は、より「現実的」と思えた連衡策を取った国々はすべて秦に滅ぼされたという事実である。
 東アジアでは、中学生でも「大国と同盟する」という選択肢の他に「同じ難問に直面している中小国同士で同盟する」という選択肢が存在することを知っている。だから、相手が秦であっても、中華人民共和国であっても、「ほら、あれですよ、『合従』」と言えば話が通じる。
 国際関係論上の新説を頭から説明しなくて済む。そして、「いや、『連衡』の方が現実的だ」と言い立てる人には、「連衡」を採用した国々の末路を思い出してもらう。その舌鋒をいささか緩和するくらいの効果はあるだろう。

 

なお、戦国時代の状況と少し違うのは、「超大国」が当時は秦だけであったのが、今回は中国の他にアメリカも残っているということでしょう。

これは、両国の争いも起きる中では、間に挟まれた小国にとっては隙をつくことができて有利でしょう。

 

さらに、内田さんはこの四国が、民主主義を共有し(いささか頼りないですが)、さらに家族制度として「直系家族制」であることを挙げています。

 

これは、少々盲点になっていました。

エマニュエル・トッドが世界の家族制度を7つに分類したそうです。

その中で、

 直系家族制というのは、子のうち1人だけが親の家にとどまり,家産や職業を継承する仕組みのことである。しばしば祖父母から孫夫婦にいたる3世代が生活共同体を形成する。直系家族はフランス、ドイツ、アイルランド南イタリア、スペイン、日本、韓国、タイ、フィリピンなどに見られる。

これが普通のような気がしていると、世界中の人々が同じような家族だと思ってしまいますが、違います。

 

そして、中国はそれとは違う制度をとっています。

中国は外婚制共同体家族制である。家産は兄弟に平等に分配され、結婚した後も親と子どもたちは同居する。兄弟の子ども同士は結婚できない。この家族制を持つ国は、中国、ロシア、ユーゴスラヴィアブルガリアハンガリーアルバニアベトナムキューバなどである。20世紀に生まれたすべての共産主義国家はこの家族制の国である。
 それゆえ、トッドは「共産主義とは何か?」という問いにこう答えたのである。
共産主義、それは外婚制共同体家族の道徳的性格と調整メカニズムの国家への移譲である」(同書、78頁) 

共産主義というものが、こういう基盤の中で動いていたということも意外でした。

 

このように、非常に優れた東アジア4カ国共同体ですが、肝心の日韓両国が最悪の関係にあります。

これも、実情を顧みずに一昔前の栄光?にすがりついているためであり、民主主義の上でもはるかに日本より成熟している韓国を立ててリーダーとし、中国とアメリカに好き勝手をさせないということが重要なのでしょう。