爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「もうすぐいなくなります 絶滅の生物学」池田清彦著

生物学者ですが、いろいろなところに顔を出して思い切った発言をしている池田さんですが、この本では本職の生物学について書いています。

 

地球に生命が誕生した38億年前から今までの間に、6回の大量絶滅があったそうです。

それは大隕石の衝突であったり、急激な寒冷化であったり、地殻の激しい変動などの理由で起きたのですが、それでもわずかな生物は生き残り、条件が良くなると一気に繁栄するということを繰り返してきました。

 

現在も大規模な絶滅が進行しており、それは人類の急激な繁茂によるという説がありますが、本書ではそれについては正面からは論じられていません。

それよりも、「絶滅しやすい種」の話であったり、「絶滅と進化」の関係であったりと、生物学の基本的な話に重点が置かれているようです。

 

恐竜が絶滅したと言われる白亜期末の大量絶滅は、ユカタン半島に落下した大隕石によるものだと言われています。

しかし、大量絶滅として見れば、実は6回の大量絶滅の中では一番規模が小さかったと言えます。

絶滅した種は全体の70%程度であり、ペルム紀の終わりに起きた大量絶滅で種の約90%が絶滅したのに比べれば、小さかったのですが、あまりこれを比較しても仕方ありません。

大隕石の衝突では、それで引き起こされた大地震マグニチュードは12に達したと考えられます。

これは、東日本大震災マグニチュード9.0と比較するとエネルギーにして3万倍の放出が起きたことになります。

これで体重が25kg以上の生物はすべて滅びました。

 

すべての生物が完全に絶滅するような事件が起きれば地球の生命はお終いですが、これまでの大量絶滅ではいくらかの生物は生き残りました。

そして、その絶滅の原因がなくなると次の生物が爆発的に進化します。

言ってみれば、大絶滅のおかげで生物は一気に進化するとも言えます。

人間社会でも、旧来のシステムが滞りだしてもなかなか改良することはできません。

戦後日本のように、大日本帝国という旧システムがいったん絶滅したから一気に進化したとも言えそうです。

 

現在の地球では、人類とともに生きている種は大きく繁栄しています。

家畜や栽培植物と言ったものがそれに当たりますが、実はその中でも馬などの奇蹄目は種としてかなり衰退しているようです。

始新世という5000万年ほど前の時代には奇蹄目の動物は繁栄しており多くの種が存在し多様化していました。

しかし、現在までに多くの種が絶滅し、今ではわずかな種だけが存在するだけです。

ウマも野生のものは3種のみです。

サラブレッドも人間社会の中で繁栄しているように見えますが、その血統はわずか3頭の牡馬から広がっており、近親交配の影響で弱い遺伝子が多く、寿命は短くなっています。

人間が居なくなったらおそらくウマも絶滅するでしょう。

 

一方、偶蹄目のウシなどは人間に頼り切っているとは言えず、その繁殖力は奇蹄目よりははるかに強いようです。

もしかしたら、人間が滅びてもウシは勝手に繁栄するかもしれません。

 

人間が滅ぼした種というのも数多くありました。

大型の哺乳類は狩りで殺して絶滅させたというものが多いのですが、ほかにもリョコウバト、アメリカバイソンなどが有名です。

種としてはまだ絶滅までは至らないとしても、地域ごとに見ればそこでは絶滅したというものも多く、日本でトキやオオカミなどは絶滅してしまいました。

他の地域では生き残っていますが、それを持ってきて生育させても復活したことになるのでしょうか。

 

野生生物の分布などをまとめた「レッドデータブック」というものが、IUCN(国際自然保護連合)が中心となって1966年からまとめられています。

これに、ニホンウナギクロマグロが載せられたと言って話題になることもありますが、それ以外にも多くの生物が載せられています。

これを見ると、島に残って特異的な進化を遂げた生物は、その環境が変わっただけで簡単に絶滅してしまうことが分かります。

島以外でも、生育域が狭い生物種はもはや絶滅してしまったというものが多いようです。

小笠原諸島などは、「絶滅種と絶滅危惧種の宝庫」と言われそうです。

 

人類に近縁のホモ属も、ホモ・サピエンス(現生人類)以外はすべて絶滅したと言われています。

しかし、最近の研究でネアンデルタール人やデニソワ人のDNAが現代人に残っていることが分かりました。

これは、ネアンデルタール人という生物種が実際は絶滅しては居なかったということになります。

他の古代のホモ属も、すべてが絶滅したわけではなく、現生人類に形を変えて続いている種もあったわけです。

 

生物の種にも、生物個体と同様に寿命があるのかどうか、これもはっきりとは分かってはいません。

人類がいつまで続くだろうかという問と同様に、回答不能な問題なのでしょう。

 

もうすぐいなくなります:絶滅の生物学

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