著者のジグレール博士はスイスの社会学者で貧困と社会構造について研究をしてきました。
2000年には国連の「食糧に対する権利」の特別報告者も務めています。
世界各国に広がる貧困や格差は、資本主義というもの自体が引き起こしていると主張しています。
1934年生まれということですので、実際にも孫娘が居てもおかしくない年でしょうが、この本もジグレール教授が孫娘のゾーラと話をするという形で作られています。
まあ、こういった作りの本によくあるように、とても子供が話すとは思えない内容が続いていますが。
資本主義は資本を持ったものがそれを最大限に利用し、利潤を生み出していこうというものであり、そこには他者に対する思いやりも公正といったものの尊重も何もありません。
したがって、より上の立場から統制しない限り、資本の暴走は止めようがなく、現代はそういった状況に陥っています。
資本主義というものを深く洞察したのはマルクスでした。
彼がその欠点の克服のために考えた共産主義が現実の場面で彼の理想とは異なる部分で破綻したために、マルクスの思想自体が問題とされるようですが、資本主義というものについての意見は捨てられるべきではありません。
マルクスは、資本家は利益、剰余価値を増やそうと努力し、それを再投資し、資本がどんどんと蓄積されていくことを見通していました。
そのごく一部の大金持ちをオリガーキー(寡占支配者)と呼びました。
しかし、労働者は貧しくなる一方でもはや商品を買うことができなくなり、資本主義は自滅すると考えましたが、今までのところそこまでは行き着いていないようです。
ヨーロッパの最初の資本の蓄積は、新大陸を舞台に先住民やアフリカから連れてきた奴隷を使って成し遂げられました。
これは主にスペインとポルトガルがやったことですが、他のヨーロッパの国々もそれに続いて植民地の犠牲のもとに資本を貯め続けました。
共産主義が一時的に広がったせいで、資本家のオリガーキー化は遅くなりましたが、1991年の共産主義の崩壊によりそれは加速されました。
ちょうどその頃までに急速に発展した通信技術の高度化とともに、金融資本の世界支配が起きました。
彼らは世界的な事業の展開と称し、タックスヘイブンに本拠地を名ばかり置いて税金も払わずに儲けを貯め続けています。
工場などの産業の移転を進め、安い労働力の国で作るために先進国の労働者は失業しています。
生産を進めている国々にはまだ環境意識も低いままのため、汚染防止もいい加減です。
環境を汚染し、住民に汚染被害を与えています。
「市場の見えざる手」という神話を掲げた、新自由主義という名の人々がこれらの蛮行を応援しています。
ジグレール教授も会ったことがある人のひとりに、オーストラリア出身のジェームズ・ウォルフェンソンという人物がいました。
彼は世界銀行総裁にもなりましたが、国家を無視できる企業による世界統治を目指していました。
これこそが新自由主義という、資本家たちの究極の理想です。
しかし、フランスの社会学者ピエール・ブルデユウーは新自由主義は妄想だとしていました。
彼ら、新自由主義者は平気で嘘を垂れ流す連中だと言っていました。
最後に告白されているのは、ジグレール教授も資本主義の代わりとなるべき経済と社会の体制については何も知らないということです。
しかし、それは必ず今の若い世代が作り出してくれるとも期待しています。
民主制度というものは、皆が目覚めれば大きな力を持つものです。
しかし、今は皆が幻を見ているだけです。
希望を持ち続けることはできるのでしょうか。
資本主義って悪者なの? ジグレール教授が孫娘に語るグローバル経済の未来
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