爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「こうして店は潰れた 地域土着スーパー『やまと』の教訓」小林久著

「やまと」は山梨県韮崎市大正元年に創業した鮮魚店「小林商店」から食品スーパーとして発展しました。

著者の小林さんは、創業者の孫で2代目社長の叔父の経営失敗で傾きかけたスーパーの3代目社長となり、色々な再建策を実施して一時は盛り返すのですが、結局は全国規模の大型スーパーの出店が相次ぎ2017年に破産してしまいます。

 

その一部始終を書き留めておこうというのが本書です。

 

鮮魚店からスーパーとして発展して営業していた「やまと」に最初に試練が来たのは1980年代、韮崎市イトーヨーカドーが出店してからでした。

地元の商店街は多くの店が廃業しましたが、「やまと」はなんとか乗り切ります。

しかし、イトーヨーカドーが撤退する頃の2001年には、他の大手スーパーも出店するようになり、その当時の「やまと」2代目社長の叔父の経営失敗が明らかとなり、店は赤字で危なくなります。

そのため、39歳の著者は思い切って叔父を退任させ代わって社長となり、店の抜本的改革を実行します。

取引業者の変更や、無駄な出費の削減、経営の邪魔になっていた身内社員を切るなど、厳しい方策を取ってようやく黒字化を成功させます。

 

そのような好業績を成し遂げたことが地域の人々の期待を集め、色々な話が持ち込まれますが、小林さんのモットーは「頼まれたら、選挙以外は断らない」だそうで、色々なことをやっていきます。

同じような中小の地元スーパーが次々と閉店となっていきますが、老人など買い物弱者は郊外の大手スーパーまで車で買い物に行くわけにいかず困り果てるということで、その跡地にやまとが出店ということを続けます。

また、それもできないような僻地に向け、マイクロバス程度の車に商品を載せて走る移動スーパー事業も着手します。

 

さらに、県庁からの依頼で教育委員も引き受け、教育委員長も勤めるという活躍ぶりでした。

 

しかし、全国規模の大手スーパーの出店が相次ぎ、スーパーやまとの売上は徐々に落ちていき、とうとう2017年に倒産ということになってしまいました。

情勢の逆風には工夫と努力を重ねても結局抗しきれなかったということでしょうか。

それでも、長年地域のために尽くしてきたことは地元の人々には理解され、倒産となってもあまり厳しい言葉は無く、いたわりの言葉を貰ったそうです。

 

最後に、関係者の人々への今の気持ちを書かれています。

感謝の言葉が多いのですが、そればかりではないのは仕方ないことでしょう。

 

こうして店は潰れた: 地域土着スーパー「やまと」の教訓

こうして店は潰れた: 地域土着スーパー「やまと」の教訓

 

 私など、家になんの財産もなく大学に行って会社を選んで就職するというコースしか無かったのですが、かえってこの著者のように家業があってそれを守るという人生よりは楽だったのかもしれません。

まあ、別に父親に感謝するほどのことではないかもしれませんが。