知財、すなわち知的財産というものが大事だということは誰でも理解できるでしょう。
しかし、それが「特許を取る」ということだと考えている人が企業の中にも多いのが日本です。
著者は弁理士として特許事務所も開いていますが、そこに特許出願の手助けを依頼してくる人たちが皆、「特許出願さえすれば特許庁によって自分の技術が守られる」と考えているそうです。
これは大きな誤解です。
特許というものは、たとえて言えば「知財に着せた透明な防護服」です。
防護服を着ていれば外敵から守られるかもしれませんが、透明なので中身は丸見えです。
特許を出願する際には出願書類に詳細を書きますが、それが1年半経過すると出願内容がすべて公開されます。
世界中の誰もがその内容を見ることができるのです。
そして、「特許には国境があるが、アイデアには国境はない」のです。
もしも、日本にだけ特許出願をしていた場合、それをそのまま他人が他国に特許出願する可能性もあります。
特許出願を自国だけでなく他国にも同時に行う「グローバル出願率」を見ると、欧米では半数が実施しているのに対し、日本ではまだ3割程度に過ぎません。
実に、7割の日本の特許は「外国でのパクリOK」の状態だと言えるわけです。
さらに、特許をたくさん取っている方が企業力が強いのかどうか、これも怪しいものです。
1970年代から2006年まで、日本は世界でも最も特許出願数が多い国でした。
しかし、それで企業の競争力が強くなったかと言うとそうではありません。
2012年の特許保有数の多かった日本企業、キャノン、ソニー、パナソニック、東芝のいずれも利益率は海外企業よりはるかに低い状況でした。
企業の持つ「アイデア」というものが企業力の基礎になります。
それを、特許として公開してしまうのは危険極まりないことです。
特許を取る場合でもその戦略を十分に練って、本質的な部分は隠しておく必要があります。
表題となっているサントリーの「伊右衛門」は、製法について特許を取っています。
しかし、その製法だけを真似しても伊右衛門と同じ製品は作れないようにしてあるということが見て取れます。
実はサントリーが特許出願したのは、技術の模倣を防ぐのが目的ではなく、マーケティングの一部として行なったようです。
これを「オープン・クローズ戦略」と呼び、見せる所、見せない所を切り分け、チラリと見せることで効果を上げる方法だということです。
最後に、企業としては必ず知財の専門家を養成すること、さらに経営者自身が知財の勉強をすることが薦められています。
レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?:特許・知財の最新常識
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