爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「朽ちるインフラ 忍び寄るもうひとつの危機」根本祐二著

著者の根本さんは東洋大学教授で公民連携が専門ということですが、老朽化するインフラの更新についても多くの主張をしているということです。

 

これまでの公共投資による建造物やインフラ建設といったものは、その恒久的な維持管理による使用継続などはほとんど考慮されず、その時々の経済成長効果だけを考えて実施されてきたようです。

そのため、徐々に老朽化が進み修理や更新といった費用が発生することが明らかになってきても、その対策というものはほとんど計画されていません。

多くのインフラは日本では前の東京オリンピックが開かれた1964年あたりに大規模に建設されました。

それが今ではほぼ50年が経過し一斉に老朽化のための更新投資が必要な時期となっています。

 

これは、1980年代のアメリカでも大規模に発生した事態でした。

アメリカでは日本より早く1930年代から、当時の大恐慌による経済崩壊の対策として国の主導によるインフラ整備が大規模に行われました。

それらのインフラがちょうど1980年代に老朽化し更新の必要な状態になってきたのですが、その当時のアメリカの経済状況は悪化していたためにインフラ対策どころの話ではなくなっていました。

そのため、橋梁の崩壊などの事故が多発しました。

1967年にはオハイオ州で46名が死亡する橋梁落下、1983年にはコネチカット州のマイアナス橋が崩落し3名死亡、2007年になってもミネソタ州ミネアポリスで橋が崩落し死者行方不明者13名という事故が起きています。

 

日本は橋の点検修理をしているから大丈夫と考える人もいますが、日本では単に橋の建設ラッシュの年代が遅かっただけで、いずれはアメリカのように老朽化が一気に進むことになります。

これまでも、点検検査の段階での不具合発見は頻発しており、数は少ないながらも崩壊による事故も起きています。

 

また、橋梁ほど劇的な崩壊事故にならないことが多いために関心が低いかもしれませんが、建築物や水道管の老朽化も大きな問題となります。

建築後30年以上を経た施設を老朽施設と考えると、すでに全国平均で54%がそれに当たります。

水道管も老朽化の進展は早く70%程度が老朽化していると見られます。

 

このような社会資本の老朽化は間違いなくやってくるのですが、国民も行政もその認識がほとんどありません。

公共投資に回す資金が少なくなっても老朽施設の対策は必要なのですが、それがわかっていない人々も多いようです。

著者は、公共施設の更新について内閣府PFI推進委員会(民間資金等活用事業推進委員会)に参加し、公共施設更新のための資金対策について提言してきました。

それによると、今後50年間に必要となる更新投資総額は実に330兆円を要するそうです。

これは、年平均にして8.1兆円になります。

 

現在の公共投資にも更新費用は含まれている部分があるのですが、現状では最大でも1割程度、金額にして2兆円程度ということであり、上記の金額との差額の6兆円は不足しています。

 

地方自治体の中には、こういった問題意識を持ち対策を考えているところもあります。

東京都狛江市、神奈川県藤沢市、同秦野市などでは、公共施設の老朽化状況とその使用状況、更新と管理の必要性などをまとめています。

しかし、使用頻度の低い施設を廃止するという方針を出してもそれを使っている住民からは激しい反対を為されます。

公民館もほとんど使用されていないところでも、わずかに活用している住民が廃止には反対します。

しかし、公民館利用料はかかるコストのわずか4%しか徴収していないといった数字を出せば納得させられることもあるようです。

 

今後の公共施設建設の在り方として、スケルトン・インフィルというものもあるようです。

これは建物の躯体(スケルトン)は頑丈に作り100年以上も使用可能とすることができるのですが、内装・設備(インフィル)は老朽化や機能劣化が激しいので、これを切り離しスケルトンのみは頑丈に作り、インフィルはどんどん作り変えていくという方法です。

学校として建てた建物を内装のみ変えて公民館とするといった活用が考えられます。

 

誰もがこの問題と無関係ではなく、真剣に討議する必要があるのでしょう。

 

朽ちるインフラ―忍び寄るもうひとつの危機

朽ちるインフラ―忍び寄るもうひとつの危機