古今書院から発行されている月刊誌「地理」の8月号では、テレビ番組「ブラタモリ」について特集されています。
「ブラタモリ」はNHKで放送されている番組で、タモリさんがある町を訪れ歩き回るというものですが、タモリさんが特に地質学マニアであるためか、このところの番組では地質や岩石、土質といったところに焦点があてられることもあり、日本地理学会や日本地質学会などの会員の興味もひいているようです。
そんなわけで、日本地理学会などが参加する「日本地球惑星科学連合」という学術団体の今年の大会で、「ブラタモリの探究」という企画が実施されました。
「ブラタモリ」の番組では、毎回いろいろな専門家が登場しますが、その専門家の多くが上記学術団体に所属する地球科学研究者であるということもあり、今回の企画でもその番組作りに関わった研究者たちが話をしたそうです。
「地理」今月号の特集でも、その番組に関わった研究者たちが文章を寄せています。
火山学が専門で静岡大学教授の小山真人さんは、ブラタモリの富士山を扱った3回の放送で案内人として登場しました。
番組では冒頭に一つのお題が示されその解決という目標で組み立てていきます。
富士山の回では「富士山はなぜ美しい?」というお題が出されました。
これに対し、小山さんも火山学の観点からいくつも答えを出しましたが、そのうちいくつかを台本に取り入れられたそうです。
ただし、やはり一般向けの放送ですので、制作側からは「単純化圧力」というものがかけられます。
学術的には複雑かつ未解明なことが多いのですが、一般向けにはわかりやすくはっきりと示すことを求められます。
その圧力に専門家が負けてしまうと、不適切な内容のものを出してしまうことにもなります。
かと言って、学術的に間違いのないところだけを出してもまず全く面白くなく、わかりにくいものとなってしまいます。
井上素子さんは、埼玉県立自然の博物館の主任学芸員ですが、ブラタモリの秩父と長瀞の回で案内人を務めました。
その立場からか、ブラタモリという番組の持つ「科学をつたえる」やり方は、博物館の使命である一般の人への展示内容の説明ということと共通するものであり、番組の方向性についても非常に好意的な見方をしています。
それを「博物館のアウトリーチ活動」と呼ぶそうですが、その実現のためにも「一般市民の思考に即した展開」を目指し、「論理よりもストーリーを重視する」そして、「正確性を犠牲にする勇気を持つ」と言い切っています。
まあ、この辺のところがテレビ番組としての最大の効用かもしれません。
特集以外の記事で興味深かったのは、公立高校元教員という蟻川明男さんの書かれた「国際色あるエジプト地名」というものでした。
エジプトはハム系の民族により古代エジプト王国が建設されました。
その首都名は「永続の美」を表す「メンフェ」と呼ばれましたが、それをギリシャでは「メンフィス」と呼んだためにそちらの呼称が世界的に通用するようになりました。
そこに、プタハの神殿というものがあり、それをHatKaPahと呼んでいたのですが、これもギリシャ人が訛ってAegyptusと呼び、それが変化してエジプトと言う名前になったそうです。
この「アエギュプトス」が短縮され「ギュプト」さらに短く「コプト」となりました。
エジプト特有のキリスト教の一派を「コプト教」、エジプト語を記す文字を「コプト文字」と呼ぶのはここから来ているそうです。
知らなかったことが判り快感です。