爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「がん検診のおかげで乳がんで死なずに済んだ人は何人?」NATROMのブログより

医学領域での活発な発言をされているNATROMさんのブログが更新され、表題のような記事が載っています。

natrom.hatenablog.com

がん検診というものが有効なのかどうか、費用と効果の対応はどうか、甚だしい場合には検診などは受けなくても良い、検診に費用をかけるのは無駄といった意見を言う人も居ます。

 

それに対し、NATROMさんが問いかける質問は次のようなものです。

「検診で乳がんが発見された人が100人いました。この100人の中で”がん検診のおかげで乳がんで死なずに済んだ”と言える人は何人いるでしょうか。」

 

100人全部がそうだという感覚を、普通の人は持つかもしれません。

しかし、NATROMさんのあげる数字は驚くほどのものです。

 

ただし、これを調査した日本の例はなく、また最近の調査例もないので、1988年のスウェーデンでの発表論文から取ったものです。(一部の表現を補っています)

 

がん検診で乳がんと診断された100人のうち、

1.検診を受けても受けなくても乳がんで死んだ。 3人

2.検診を受けたおかげで乳がんで死ぬのを免れた。(受けていなければ乳がんで死んだと考えられる) 3人

3.検診を受けずにいてそのうち症状が出て癌と診断されたとしても、それから治療することで死ぬことが無かった。 ?人

4.検診を受けなくても一生症状も出ず、検診を受けなければ癌と診断されることも無かった。  ?人

 

実は、この中の3,4,のケースは上記のスウェーデンの調査の範囲内では決められておらず、さらにその後の継続調査で推計値が出されていたそうですが、4が29%、3はその残りの65%と言う結果になるそうです。

 

この数字をどう見るか、難しいところです。

がん検診などあってもなくても、3人の人は死んでしまった。

そして、65人の人は検診など受けないままでもそのうち症状が出て癌と診断され、それから治療して死なずに済んだ。

29人の人は、癌があったとしても一生症状も出ず、そのまま寿命が尽きるまで居られたのに、検診で癌と言われたので余計な治療をされた。

検診が有効で、これで生命が救われたとみられるのは3人でした。

 

3人が少ないのか、「3人も救われた」と見るべきなのか。

 

記事の後半部は、NATROMさんが予想される質問に答えるというコーナーを作ってあり、これが参考になりそうです。

 

上記の4のケースは「過剰診断」と呼ばれるものであり、これを問題視する立場の人も多いようです。

しかし、想定問答集の中にも説明されているように、現実に発見された乳がんを前にして、精密検査を担当した医師にそれが「過剰診断」かどうかを判断することはできず、誰もが乳がんであるとして対処せざるを得ません。

 

近藤誠さんという、がん検診などを敵視する意見を発表している医師もいますが、その立場とも大きく違うとしています。

 

予想問答集の最後のところに書かれているものが医師としての見方なのでしょう。

Q. 名取宏は検診の害ばかり強調してけしからん。
A. 乳がん検診が乳がん死を抑制する利益があることを定量的に述べています。

 

Q. 名取宏は検診の利益ばかり強調してけしからん。
A. 乳がん検診に過剰診断をはじめとした害があることを定量的に述べています。

 

Q. 結局、どのがん検診を受ければいいのですか?
A. 公的に推奨されている検診を受けるのが無難です。たいてい、金銭的な補助もあります。『医師が教える 最善の健康法』に詳しく書きました。

乳がん検診には、少ないとはいえ確実に乳がん死を抑制する効果があるものの、過剰診断などの害もあるのは事実ということでしょう。

 

なお、記事の中に触れてありますが、「乳がん検診は有効性が証明された数少ないがん検診の一つ」だそうです。

他のがん検診の中には有効かどうか分からないものがあるということなのでしょう。