「はじめに」の最初から明確な人類の歴史の認識が示され、引き込まれていきます。
現代社会は、人間の歴史の中の、巨大な曲がり角にある。
まさに、その通りでしょう。
ギリシャで哲学が生まれ、仏教や儒教が生まれ、キリスト教の基になる古代ユダヤ教のめざましい展開のあった「軸の時代」が人間の歴史の第一の巨大な曲がり角であった。
その「軸」を中心にして貨幣経済と都市の原理が浸透し、無限に発展するかのような「近代」という原理で進展し続け、グローバリゼーションという事実によってここに初めて「地球という惑星の〈有限性〉と出会った」からです。
日本人の意識を長く調査し続けているものに、NHK放送文化研究所の「日本人の意識調査」というものがあり、1973年以降5年毎にデータを残しています。
世代というものをおおまかに15年ごとに捉え、「戦争世代」「団塊世代」といったものとして意識の在り方を分析しています。
すると、戦争世代から第1次戦後世代、団塊世代まではそれぞれの世代の意識というものは大きく異なっているのですが、その後は徐々に接近していき、団塊ジュニア世代以降はほとんど意識が重なっているということです。
これは、今までの「歴史は加速度的に進展する」という認識が変わってきていることを意識の上からも示しています。
1960年代までは、地球の人口爆発が大きな問題とされてきました。
しかし、前世紀末には先進国では少子化が問題となり、いまだに途上国では人口増加が止まらないというイメージがありますが、実際は人口増加率はすでに急速に低下しています。
生物学者が「ロジスティック曲線」と呼ぶS字型の曲線がありますが、理論より先に人類はすでにその曲線に沿った動きを示しているようです。
近代の最後の表れとしてグローバルシステムの爆発的成長というものが起きていますが、それはいつまでも成長が続く無限性を追求するものでした。
しかし、そのさなかに、地球の有限性を立証してしまいました。
情報化という、無限に増殖するかのような虚構のなかで、地球自体は有限であることが明らかになってしまいました。
もはや、これ以上の物質的成長は不要なものとして完了し、この後どうなるかの見晴らしを切り開くこと。
それが今後の人類の生き方を指し示すことです。
成長の完了した世界というのは、経済成長に取り憑かれた人々にとっては「停滞した魅力の少ない世界」のように見えるかもしれません。
しかし、経済成長の脅迫から解放された人類は、アートと文学と思想と科学の限りなく自由な創造と、友情と愛と子供たちとの交歓と、自然との交換の感動を追求し続けるだろう。と続けています。
「天国」や「極楽」には経済成長はありません。
この次に、日本に加えヨーロッパとアメリカの特に若者の意識調査の結果が論じられています。
特にヨーロッパにおいては現状満足と幸福感の上昇というものが見られていました。
日本においても、幸福感は少ないものの現状には満足しているようです。
ただし、近年とくに移民の増加とテロの恐怖が増大しており、それが政治へも影響を増しているのは間違いありません。
大きなテロ事件のあとでは、ヨーロッパでも若者の幸福感の数値は低下したようです。
転換期を迎えた人類文明ですが、その先にあると思われた20世紀型の革命は大きく挫折し崩壊しました。
しかし、それは決して「資本主義の勝利」などと呼べるものではなく、崩壊の時期を早めただけのようです。
その先に何があるのか、自らで作っていかなければならないもののようです。
現代社会はどこに向かうか――高原の見晴らしを切り開くこと (岩波新書)
- 作者: 見田宗介
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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ロジスティック曲線というものに、見田さんは社会学的な意味を見出したようで、本書後半に独自の章を設けてさらに論じています。
実は私もかつては生物学者のはしくれ(端の端)でしたので、おなじみのものでした。
それが人類文明にも当てはまるということは、ようやくながら実感できているところです。