爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「世界が動いた『決断』の物語 新・人類進化史」スティーブン・ジョンソン著

「人類進化」という文字に惹かれて読みましたが、あまり進化には関係ないようです。

 

最後の章に書かれているように「学校で過ごした長い期間で、意思決定そのものを教える授業はひとつも記憶にない」そうです。

アメリカでもそうでしょうが、日本でもまったく私も記憶にありません。

 

これほど大事な「意思決定」ですが、それについてバラバラに研究する分野はあっても、たいていが経営や方針立案に留まっています。

 

そんなわけで、古今の意思決定が行われた史実をめぐり、マッピング、予測、決定、選択という過程を解説し、よりよい意思決定を可能とできるようにしようというものなのでしょうか。

どうも、それについて効果的な解説は無かったような気がします。

 

取り上げられている史実としては、ダーウィンが結婚すべきかどうか迷ったこと、ビンラディンの隠れ家を突き止めた時にオバマが突入するかどうかの決定、アメリカ独立戦争でワシントンがニューヨークを守ろうとしたこと、などが取り上げられています。

オバマの選択は聞いたことがありますが、他の例は知りませんでした。

 

これらについて、様々な関連事項を地図のように並べてみる(マッピング)、そしてそれぞれがどのように進行するのか予測する、そしてそれらをふまえて決定する、といった手続きで進めるということです。

まあ、そんなものでしょうというところで、それほど目新しい方策があるわけではないようです。

 

 

アメリカでは市民による陪審員制度が長い歴史を持っていますが、その構成人員と決定結果を調べた研究があるそうです。

すると、白人の中年男性ばかりといった同質の集団より、人種・年齢・性別・社会階層等が異質で多様なメンバーを含む集団の方が、正しい容疑者を特定する回数が多かったそうです。

そのような多様な集団では、どのメンバーも取り調べの評価から決定に至るまできちんと思考し、討論するということが見られ、同質集団ではそれがおろそかになりがちだとか。

 

人間の脳の働きを研究する場合に、「安静にして何も考えずリラックスして」と指示したのですが、結局誰も「何も考えず」には居られないようです。

逆に、そういった場合に人間は何を考えるかを調査した研究があるのですが、それによれば、過去の出来事より将来の出来事を考える方が3倍多かったそうです。

 

将来の予測をするというのは難しいものですが、専門家や著名な知識人に将来の出来事を予測してもらうという調査が行われました。

長期(10年)の予測をするという課題を出したところ、専門家と言えどその予測は「つねに変化がないと考える」か「現在の変化率がずっと続く」でしかなかったそうです。

長期の予測を立てることについては、専門家と言えどチンパンジーが投げるダーツを同程度でしかないとしています。

ただし、いくつかのグループだけは正解率が優位に高かったそうです。

それは、「自らの思想信条を中心に考えるグループ」と「現実的に考え様々な分析ツールを駆使するグループ」だったということです。

 

まあ、意思決定というものは大変なことですが、誰もそれをまともに考えたこともないというのが真実でしょう。

 

世界が動いた決断の物語【新・人類進化史】

世界が動いた決断の物語【新・人類進化史】