SFには既存の物理学から遠く離れたような夢物語が出てきます。
しかし、それらは本当に夢なのか、実現の可能性があるのか、実際はあまり素人には分かりません。
著者のミチオ・カクさんはアメリカの理論物理学者で、超ひも理論の権威ということですが、SF小説も子供の頃から読んできました。
そこで、物理学の立場からSFに出てくるものが実現の可能性があるかないか、本気で論じてみました。
そして、「不可能レベル」を判定、ⅠからⅢまで3段階に分けています。
レベルⅠは現時点では不可能だが、既知の物理法則には反しておらず、今世紀中か来世紀に(ただし若干形を変えてかもしれない)実現するかもしれないものです。
レベルⅡは、物理学の理解の辺縁にかろうじて位置するようなもので、できるとしても数千年から数百万年も先のことかもしれないということです。
レベルⅢは、既知の物理法則に完全に反するもので、実現の可能性はほとんどないと言えるものです。
ただし、どれがどのレベルかということは、一般人の常識とは少しずれているかもしれません。
完全に不可能と言える「不可能レベルⅢ」というものは意外に少なく、「永久機関」と「予知能力」しかありません。
不可能レベルⅠには、「フォースフィールド」「テレポーテーション」「テレパシー」「念力」などが入ってきます。
とはいえ、実際に実現するかもしれないものは、かなり形を変えたもののようです。
不可能レベルⅡには、「タイムトラベル」「並行宇宙」「超光速」が入ります。
本当かと疑ってしまいます。
スターウォーズの映画で、デス・スターという巨大なレーザー砲が出てきます。
一つの惑星を破壊するほどの強力なエネルギービームを発する兵器ですが、これは実現できるものなのでしょうか。
光線銃というものがSFに登場したのは、1898年のH.G.ウェルズの「宇宙戦争」が最初でした。
その後も集約した光線を使う兵器というものはSFだけでなくジェームズ・ボンドの007でも出現しています。
レーザーは現在では現実に使われています。
ガスレーザー、固体レーザーなど多くの種類があり、用途も商用から軍用まで存在します。
ならば、実戦で使える光線銃はできないのか?
これは、動力装置の巨大なものが必要となるからです。
光線銃には巨大な発電所級の出力を持ちながら、携帯式となるような動力装置がなければ使えません。
したがって、現在の技術でSFに登場するような武器を作るのは無理ですが、材料科学とナノテクノロジーが進歩すれば可能になるかもしれません。
「念力」も不可能レベルⅠというのは不思議な気がします。
現実問題として、超能力があると称して「念力少年」などというのが時々登場します。
それを科学的に調べるとして、科学者を使って検証するということが良く行われますが、科学者は「自分の目にしたものを信じる」という習性があるのに対し、超能力者を名乗る奇術師は人の視覚を欺いて騙す専門家ですので、そのような科学者など簡単に信じさせることができます。
著者がここで取り上げている「念力」というのは、そのような念じただけでものを動かせるというようなものではなく、脳の働きで信号を発してそれをコンピュータで変換するというものです。
このようなセンサーは障害者のコンピュータ使用の端末として研究が進められ、すでに実用に近いものができています。
その意味で「レベルⅠ」ということです。
ロボットはすでにかなり実用化されているようですが、本当の意味で「意識と感情を持つ」ロボットというものはまだ遠い先の話のようです。
いずれはコンピュータも性能を上げて情報処理を思考の段階にまで上げるかもしれません。
ただし、これまで通用してきた「ムーアの法則」つまり「コンピュータの処理能力は18ヶ月ごとに倍になる」というものは、トランジスタの小型化が究極まで進み、現在のチップの原子20個分の厚みが、原子5個分になると、ハイゼンベルグの不確定性原理により電子の所在がつかめなくなり、チップがショートしてしまうことになります。
そこまで行くとこれまでとは原理の違うコンピュータ、(量子・DNA・光・原子など)が必要となりますが、これが本当にできるのかどうかまだ不明です。
それでもシリコンチップからの変換はいつかは果たされるかもしれず、その時には思考するロボットができるかもしれません。
本当の物理学者の解説で、内容も高度ですがワクワクさせるものであるのは間違いありませんでした。
- 作者: ミチオカク,Michio Kaku,斉藤隆央
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2008/10/25
- メディア: 単行本
- 購入: 10人 クリック: 70回
- この商品を含むブログ (46件) を見る