爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ディープな戦後史 歴史が面白くなる」相澤理著

著者は有名な予備校東進ハイスクールで日本史を担当しており、前著で東大の日本史の入試問題を分析したのですが、それよりはるかに面白いという一橋大学の日本史を扱ってみようというものです。

 

東大の入試問題は、他の大学も同じような傾向でしょうが、戦後史はほとんど出題されません。

しかし、一橋大学では3問が出題されて1問は近代以前の古代史ですが、あとは戦前・戦中史と戦後史が1問ずつという、非常に面白い出題方法がされているそうです。

 

これは、元々が経済界への人材供給を使命とする一橋大の在り方というものを真剣に追求した上での方針と考えられます。

 

本書では、そのような一橋大の日本史入試問題として出題された戦後史に関するものを詳細に解説して見せますが、それが歴史問題としてはあまり触れられることのない日本戦後史というものをきれいに説明することにもなっています。

一橋大を受験する学生だけでなく、すべての日本人が知っておくべきことでしょう。

 

なお、あとがきにあるように、一橋大の日本史入試問題については「学校で教える内容を逸脱している」とか「ここまでの内容を高校卒業者に求めるのは酷だ」といった批判もあるようです。

しかし、前者についてはまったくの誤解で、教科書記載内容だけで完全に解答することができますし、後者については、「これこそが入試の問題」とさえ言い切っています。

つまり、「一橋大の入試問題がこのようなものだ」ということが分かっている以上、この大学に入りたいと思うのなら石にかじりついても勉強して通ってやる。これこそが受験勉強だということです。

 

全10問について、問題とその背景の歴史事実についての解説がされていますが、ほとんど解答することができませんでした。

まだまだ勉強不足が歴然でした。

 

第二次大戦の末期には、その後の冷戦につながるような動きが大きくなっていきます。

1945年2月のヤルタ会談では、アメリカのルーズベルトソ連スターリンが戦後処理に関して鋭く対立。

特に、ポーランド問題ではすでにソ連支配下で樹立した国民解放委員会と、ロンドンにあった亡命政府のどちらを正統とするかで米ソが激しく争います。

その結果、亡命政府指導者の逮捕や追放を行い社会主義国化したために、米ソの争いが激しくなります。

また、ここではソ連の対日参戦に関する密約、ヤルタ協定が結ばれ、ドイツ降伏後のソ連の対日参戦を求める見返りに、千島列島と南樺太ソ連帰属、満州の利権を認めました。

これは、カイロ宣言の「植民地主義の克服」という理念と反するもので、「戦争で千島を取った」という現ロシア政権の主張の根拠となるものです。

 

戦後の日本の政党は、あれこれあって自由民主党日本社会党が成立して55年体制ができたということは知っていますが、それ以前の経緯はあまり分かっていませんでした。

吉田茂アメリカに従属する代わりにアメリカから最大限の援助を引き出すということで様々な施策を実施したのですが、保守側でもこれには大きな異論があったようです。

鳩山一郎岸信介といった反吉田派は「自主独立」路線を標榜し、自主憲法の策定と再軍備を目指します。

この方針がいまだに自由民主党の理念として残っているのだそうです。

吉田の対米従属方針と、憲法改正再軍備という鳩山などの方針を両方取り入れているという、おかしなのが現在の自民党ということなのでしょう。

 

高度成長が成功した要因というのも載っています。

1ドルが360円という、ドッジ・ラインで定められた超円安の固定相場でアメリカへの輸出産業が成長したこと、技術革新と設備投資がうまく機能したこと、そして石炭から石油へのエネルギー革命が進行したこととされています。

特に、石油は中東から安価な原油を大量に調達できたために、スムーズに進行しました。

そのかわり、国内の石炭産業が急激に斜陽化し、労働争議も盛んに起こりましたがなんとか収められました。

余談ですが、この仕組が分からずに夢を再びという人がまだ多いようです。

 

このような一橋大学の入試問題というものがあるということも全く知りませんでしたが、驚きました。

さすが、一橋というところでしょうか。

 

歴史が面白くなる ディープな戦後史

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