十返舎一九の「東海道中膝栗毛」は、滑稽本のヒット作として有名となり、名前だけは誰でも知っているようですが、その中味はあまり知られていないところもあるようです。
中には内容を大幅に改変して児童書としている場合もあるようですが、実際にはとても子供に読ませられるようなものではありません。
十返舎一九という作者についても、あまり他の作品というものはないようですが、いろいろと苦労をしてきたようで、膝栗毛の中でも挿絵を自分で書いてしまうという器用さがあり、それが出版元にとっても都合が良いということがあったそうです。
この本では、その一九が書いた挿絵に着目し、それがどのように描かれているか、そして細部にどのようなものが見えているかなど、それを解析することにより江戸末期の庶民の旅行というものを見直しています。
弥次喜多という登場人物は名前は知られていると思いますが、その設定もすごいものです。
元は旅の役者の一座で、男色の相手でしたが、一座に居られなくなるような悪事があり、江戸に流れてきて生活を始めます。
そこでも女を騙してやり放題、結局江戸にも居られなくなり旅にでも出るかというのが発端というものです。
旅の途中でも宿場ごとに女郎を買ったり、女中に手を出したり、旅の芸人や瞽女、尼などに忍んでいって、間違えて母親に抱きついたりと、大変な活躍ぶりです。
その当時はすでに男性ばかりでなく女性の旅行者というものも数多く、中には金に物を言わせて遊郭で遊ぶ女性も居たとか。
一九が書いた最初のところには、この本は道中記などのように名所旧跡のガイドをするものではないとはっきりと書かれていて、そんなものは普通の道中記に任せておいて、旅の本当の楽しみをたっぷりと描くということが謳われており、それが大ヒットの要因でもあったようです。